キミのその手を その声を 【2】

気の抜けない鍋 ページ35

「よろしく。」


そう言って、二人がグラスを合わせる。

自分の大切な人が仲良くなってくれるのは本当に嬉しい。

ニカは、まだ、少し真紀を警戒してるみたいだけど、きっと、二人は仲良くなれる。



「真紀はね、新婚さんなんだよ。」



二人の会話のきっかけになればと話を振る。



「えっ！マジで？」


「どういう意味よ。」


「いや。なんでもない。」



完全に真紀の勢いに押されるニカ。

でも、すぐに、私に視線を向けて、小さく嫌み。



「Aちゃん、出遅れた？」


「ほっといて。」



煮立ったトマト鍋を取り分けながら、適当にあしらう。


こんなの、もう、慣れっこ。

出遅れも、いき遅れも、聞き飽きた。


そんなの自分が一番わかってる。



「どうぞ。」



ニカに取り分けた器を渡すと、ふうふう冷ましながら口へ運ぶ。

そして、うまいっ！って、口の端を舐めながら、笑顔で無邪気なトラップ。



「まぁ、Aちゃんが出遅れてくれたお陰で、オレは、美味しいご飯にありつけてるんだけどね。
拾われてよかった〜。」



ほら、また、そうやって。


私を翻弄する。



「真紀も食べなっ！」



ニカの言葉に翻弄される私をニヤニヤしながら見ている真紀にも器を渡すと、さらににやけ顔。


なんだか、気の抜けない鍋パーティーになってしまった。





・・・





煮詰まったトマト鍋のスープに〆のパスタを入れる頃には、シャンパンのボトルは空になって、真紀とニカもすっかり打ち解けていた。

ニカと真紀の共通項は、私以外の何者でもなく、本来、真紀と二人でニカを話題に盛り上がる予定は、私の話題で盛り上がる二人を赤くなったり青くなったりしながら言い訳する時間に変更された。


真紀が買ってきてくれたデザートは、フランボワーズを使ったレアチーズケーキで、甘酸っぱい大人の味がした。



「さて、そろそろ、帰るかな〜。
旦那が帰ってくるまでに、夕飯の支度もしなきゃいけないし。」



時間を確認すると真紀がそう言った。

独身の頃なら、尽きない話にそのまま泊まっていくこともあったけど、主婦になった親友を引き留めることもできない。



「そうだね。久々の家飲み、楽しかった。」


「また来るよ。ニカも、また飲もうね。」


「うん。また、Aちゃんネタ仕入れとくわ。」


「ﾌﾌｯ… 楽しみにしてる。Aの監視、よろしく。」


「ラジャー！」



私にとっては、ありがた迷惑な約束を交わして、真紀は、席を立った。

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