キミのその手を その声を 【2】

電話越しの声 ページ21

どうする？

渡しに行く？

その前に、家にいるか電話する？

やっぱり、メールがいいかな？



紙袋を持ってリビングをウロウロ……。



どうするのが正解？



「あぁ〜っ！わかんないよっ！」



29歳にもなって、こんな些細な恋の進め方もわからないなんて。どんだけ臆病なんだ、自分。

時計を見ると21時過ぎ。

リビングには、つけっぱなしになっているテレビから、サンタの衣装を着たアイドルたちが歌うお決まりのクリスマスソングが流れていた。



「うっさいっ！小娘どもっ。」



テレビに悪態をついて、電源を切る。


静まり返るリビングにダッサイ部屋着のアラサーが一人。



「……… はぁ。」



寂しい現実に大きなため息。


そこに、メッセージの着信音が響いた。

テーブルに置かれたスマホの画面が明るく光る。



― プレゼントは、渡すようにっ！



まるで、私の行動を何処かで監視していたかのような、真紀からの指令。



「…… だから、どうやって？」



旦那さんとの幸せな時間を割いて送ってくれているであろうメッセージに、返信すべきか悩んでいると、再び手の中のスマホが着信を知らせた。

真紀からの具体的な指令を期待して、画面に視線を移せば、そこに、表示されたのは、




『ニカ』




今、まさに、私を悩ませていた張本人からの電話だった。


戸惑いながらも、通話ボタンを押して、スマホを耳に近づける。



「もしもし？」


「あっ、Aちゃん？オレ。」



仔犬モードのニカが私の名前を呼ぶ。

名乗らなくてもわかる、特徴的な声。



「あれっ？Aちゃん？聞こえる？」



あまりのタイミングの良さに、一瞬、無言になると、電話の向こうでニカが不安そうな声を出す。

想像がつく、うろたえるニカの姿。



「オレオレ詐欺ですか？…ﾌﾌｯ」


「ﾝﾊｯ……聞こえてるじゃん。ニカだしっ。」



はじめて聞く電話越しのニカの声にドキドキする。

ニカの背後のざわつく音がどうやら外にいることを予測させた。



「Aちゃん、家で一人？」


「喧嘩うってんの？」


「違う違うっ！」


「ニカは？なんだか楽しそうな感じだね。」



数人の話し声や笑い声が聞こえる。



「あ〜。楽しいけど、仕事だよ？」


「そっか。大変だね。クリスマスなのに。」


「あっ、ごめん、呼ばれたから行かなきゃ。
そうだ、今からメール送るからっ見てねっ。じゃあね！」



結局、用件は何だったのかわからないまま、慌ただしく電話は切れた。

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