キミのその手を その声を 【2】

伝えたい言葉 ページ14

「うんまっ！」

「何これ〜！スッゴク美味しい。」



ニカが持ってきてくれたたい焼きを二人で頬張る。


ほうじ茶とたい焼き。
まるで老夫婦のような組み合わせ。

普通の幸せ。


部屋に帰ってきたときの重い空気は何処にもなくて、あるのは、目の前のニカの笑顔。



「Aちゃん、絶対に好きそうだと思って。」


「大当たりだねっ。さすが、ニカ。」



そう言って、ニカの髪をクシャクシャと撫でる。



「ﾝﾌｯ……やめろっ。」


「やめないっ。ﾌﾌｯ」



また、ニカは、仔犬に戻った。



でもね、私、気がついたんだよ。


ニカが、私との距離を上手くとってくれてること。


私が私でいられるように。



だから、涙の理由も聞かないでくれるんだよね？



たい焼きの餡がついた指先をペロリと舐める仕草、ほうじ茶の入ってるマグカップを包むように持つ手。



ニカの全てに惹かれる。



「やめろっ」なんて言っても、私の手を振り払ったり、逃れようともしないのは、ニカもこの関係に満足してるからだって、自惚れてもいいかな。


柔らかな髪を撫でながら、私の中に、優しさが満ちてくるのを感じる。



「ニカ……。」



マグカップに口をつけたまま、私の声に上目遣いで答える。



「…………… ニカ。」



続けたい言葉は、いくらでもあったけど、今は、まだ、言えない。



「…… なに？」


「なんでもない。」


「なんだ、それ。ﾌｯ」



でも、神様がくれた折角のチャンス。



真紀が押してくれた背中。


もう一度、恋してみようって決めた自分。


昨日までとは違う、ニカとの距離。



これだけは、今、言わなきゃ。



「ニカ………。」


「だから、なんだよ。」



半笑いのニカと目を合せる。



「…………。」



今しかないよね。



明日になったら、きっと、恥ずかしくて言えなくなるから。







「ありがとう、
…………抱きしめてくれて。」







頬が熱くなるのを感じたけど、目の前のニカの頬がきっと同じ位赤かったから、目をそらさずいられた。



「そういうのは、言わなくていいからっ！」



そう言って、大きな手で口元を押さえて恥ずかしがるニカが愛しくてたまらない。

触れる指先→←すり替えたい話題

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す