キミのその手を その声を 【2】

欲張り ページ11

溢れてしまった涙は、なかなか止めることはできず、みるみるニカのTシャツをぬらしていった。



「ごっ……ごめん。ニカ……。」



離れようとすると、背中に回された腕に阻止される。



「気にしないよ。」



それだけ言うと、優しく背中をトントンと叩く。

私は、甘える覚悟を決めるとその胸に顔を埋めた。



「ニカ……。」


「何？」



返ってくる優しい声。

強がってるだけで、強くなんてない私は、もう、ずっと前から誰かの優しさを求めていたんだ…。



「今だけ……。」


「今だけ？」



私の言葉を繰り返すニカの顔は見えないけど、背中の手は、まだ、ゆっくりと一定のテンポを保って優しいから、言葉を選んで、想いを閉じ込めて、伝えてみる。






「今だけ……抱きしめても……いい？」






私の背中に回るニカの手が止まる。



やっぱり、言わなければよかった……。



ニカの胸で泣かせてもらうだけで、よかった……。



欲張った……。



「ごめん……やっぱり、いい。」



そう言って、ニカの胸を手で押すように離れようと顔をあげると、なんとも複雑な表情のニカと目が合った。



驚き、はにかみ、困惑。


目の前、20センチ。


半開きの口。



「ﾌﾌｯ……変な顔。」



思わず泣き笑い。



「変とか言うなっ…。」



照れて顔をそらすニカが可愛い。
拗ねた横顔。



「……… ありがと。大丈夫。」



そう言って、ゆっくりと体を離すとクッションに座るニカの足の間に、向かい合うように座った。



「癒し効果抜群だねっ。」



この状況に耐えられなくて、涙を手の甲で拭うと笑顔を作る。



「撫でるより10倍位かな〜。」



いつもの空気、作りたいのに上手くいかないのは、ニカが黙ってるせい。

私から顔をそらせたまま、考え込んだまま無言。


何か言ってよ……。


私の物じゃないのに、欲張ったせいで、壊した。



「ニカ、何持ってきてくれたの？」



せめて、仔犬のニカに戻ってくれたら、もう、欲張らないから。

自分の傷は、自分で癒すから。


ローテーブルに置かれた紙袋に手を伸ばそうと向きを変えると、そっと腕を捕まれる。



「……… ニカ？」



そこには、仔犬とは程遠い、困ったような切ない表情のニカがいた。



「ごめん、Aちゃん。」



あぁ、壊しちゃった……。


最大級の後悔が私に押し寄せた瞬間、






「オレが………抱きしめてもいい？」






ニカのハスキーな声と同時に、その腕に抱きしめられた。

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