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でもどうやら彼の視線は私ではなく、この手に持ってる缶のようだ。
「あぁ、これ？これはジントニックっていうお酒。私の大好きなお酒なの。あなたは…飲んでいい年齢かわかんないからまだ駄目ね」
自分が記憶喪失ってことをかなり気にしてるみたいで、私がそう言うと、またあの寂しそうな表情でうつむいてしまった。
しまった…。
あんまりこういうことを言うのは駄目だよね、やっぱり…。
私は話題を変えようとして何かないか考えた。
「そ、そうだ！まだ自己紹介してなかったよね！私、Aって言います。気軽にAって呼んでね」
と、なると問題が一つ。
それは…。
「ずっとあなたって呼ぶわけにもいかないし、あなたの名前も、何か考えないとね…。ニックネーム的な何か…。何がいい？」
そう聞いてみるけど、ちょっと困った顔をしている。
どうしようかな…。
私が決めるか…。
って言っても、何も思い浮かばないよ…。
私はまた缶に口を付けてジントニックを口に含んだ。
ジントニック…。
「ジ、ジント…。ジント君ってどうかな？あなたの名前！」
我ながら、絶望的なネーミングセンス！
まさか、お酒からとった名前を受け入れてくれるわけないよね…。
そう思ったのだが、当の本人は、何とも言えない表情を浮かべ、そして、ゆっくりと小さくうなずいた。
え？
それって、ジントで良いってことなのかな…？
「ジ、ジントで良いの…？」
改めて聞き直してみる。
すると、またしても何と言っていいのか分からない表情を浮かべて小さくうなずいていた。
何と言っていいとは言ったものの、別段嫌って表情ではない。
喜んでいるのか、笑いたいのを我慢しているのか、口元が微妙に緩んでいると言ったような表情なのだ。
もしかして、嬉しいのかな…？
まぁ、でも、これ以上考えてもいい名前は出てきそうにないし、本人も喜んでいる…のかは分からないが、否定はしていないようなので…。
そして、私は佐野先生から受け取ったノートの上にこう記しておいた。
『彼の名前は今日から"ジント"君』
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作者名：milkssss | 作成日時：2020年2月17日 15時
