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無情になれたら。 ページ3

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風の噂で、鬼はもう居なくなったと聞いた。

もう夜道を1人で歩いても、突然命を落とすことは無いだろう。



杏寿郎の命を奪った鬼は、誰かによって倒されたのだろうか。



あぁ、また…悪い癖だ。


こうして何度も無意識に思い出しては、彼がいない現実を嘆いて、どうしようもなく寂しくなるのだから。



少しでも気を抜けば、捨ててきた愛を拾いに戻ってしまう自分が疎ましい。



あと何年、この繰り返しをすれば良いのだろうか。



惰性のような毎日をあとどれだけやり過ごしたら、
あの日の彼に会えるのだろうか。



もう今年で、杏寿郎の歳を追い越してしまう。



過ぎ去っていく時間と同じくらい無情になれたら、
もう少し楽になれるのに。







「Aちゃん!Aちゃん!!」




うちの店の向かいで小料理屋を営む女将さんが、元気よく私に手を振った。


小走りでこちらへ向かってきたその片手には、お裾分けのおでん。


「そんな所でぼーっとしてたら風邪ひくよ?
 ほら、これでちゃんと温まりな。」


女将が私の手を握るようにして、ほかほかのおでんの包みを手渡した。


『いつもありがとうございます。』


お節介焼きたいのよ、と微笑む彼女もまた、大切な家族を鬼に奪われた過去があることを私は知っている。


どうしてそんなにも上手に、悲しみを隠せるんだろう。


『女将はいつも元気ですね。』


「そうねぇ。
 ほら、最近はこの辺も様変わりして、若い子が増えたでしょう?
 私も負けてられないなって。こんなおばあちゃんだけど、最近はお店が休みの日には洋服なんかも着てみたりしているのよ?」


くすくす、と可愛らしく笑う女将につられて、私も笑みが零れた。


「焦ることないのよ。人生はまだ長いわ。」


私の心を見透かしたように、女将は私に優しく微笑んだ。

きっと、心配してくれているんだ。

気を遣わせている、申し訳ない、こんな気持ちばかりが喉元から言の葉に乗せて出てしまいそうになるのを堪えて、私は女将に頭を下げた。



『今度、お店に遊びに来てください。
 最近は少しずつ、洋服も扱うようになったので。』



女将のような笑顔は作れなかったが、ぎこちなく上げた口角と頬が痺れるような筋肉の強張りが、またひとつ私をあの記憶から遠ざけてくれたように感じた。






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設定タグ:鬼滅の刃 , 不死川実弥   
作品ジャンル:恋愛
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羽糸(プロフ) - 金平糖さん» コメントありがとうございます!!他の作品も読んで頂いているんですね!嬉しいです。これからももっと楽しんで頂けるように頑張ります!! (2021年11月9日 18時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - ひよさん» そんな風に言ってくれるあなたを私は尊敬しています。コメント力が高すぎて何て返そうか悩んだけど、シンプルに、その感想が嬉しいです。読んでくれてありがとう!! (2021年11月9日 18時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
金平糖 - 完結おめでとうございます🎊私、涙脆いので目から滝が流れてくるように泣きました。他の作品も読ませて頂いてるのですが、全て私好みの作品です。本当に完結おめでとうございます!!! (2021年11月7日 18時) (レス) id: 63ca64d519 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - 完結まで本当にお疲れ様でした。原作の実弥さんならこう言うだろう、こうするだろう、と強く頷きながら読みました。どんなにしんどい内容でも、文章の紡ぎ方と言葉の選び方で昇華させるあなたを尊敬しています。読ませてくれてありがとう! (2021年11月7日 11時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - 衣世さん» 衣世さん、はじめまして!コメントありがとうございます。書いている私も胸が痛めつつ書いてます(笑)この後は完結まで一気に仕上げた後で公開予定です。もう少しだけお付き合いくださいませ☺️ (2021年11月6日 10時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:羽糸 | 作成日時:2021年10月24日 0時

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