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渡せる愛は。 ページ14

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「風邪、引くなよ。」


あっという間に着いてしまった自宅は、実弥さんを引き留められるものは何ひとつなくて。

物足りないと喚く心を鎮める方法も見つけられず、実弥さんを見つめた。



「早く入れェ。
 帰りにくいだろ。」


『すみません…』


では…という声とは裏腹に、地面に杭でも打たれたかのように動かない足が、名残惜しさを体言する。



『やっぱり、見送ります。
 そうしたいみたいなんです。』



胸に手を当てて、頑張って笑顔を作る。

また明日。そうひと言言えば良いだけなのに、それが出来なかった。




「ンな顔すんなよ。
 帰って欲しくないように見えんだろォが。」


『…すみません。』


「否定、してくれよ…」



ここで否定が出来るほど、私は器用じゃなかった。


だから、余裕なく奪われた唇に熱を宿して、その濡れた背に腕を回した。


(たが)が外れたように貪るのは、頑なに捨て続けてきた色のついた欲望で、恐ろしいほどに溢れて、狂おしいほど私を昂らせた。




「これ以上は、やめてやれねェ…」



別の生き物のようになった心臓が、ゴクリと生唾を飲んだ気がした。


結局、人間とはこうなのだ。




実弥さんとは、程よい距離感でいたかった。


手に入れることもせず、失いもせず、ただゆっくりと流れる時間の中で、そのひと時を共にするだけで良かったのに。




『……あがっていきますか?』


こんなことを言うなんて、どうかしている。
今のできっと、私の印象は大きく変わっただろう。


「なァそれ、意味分かってンの?」


精一杯の理性を持ち出す実弥さんに、私は笑いかけた。


『そうですね…
 初めてでは、ありませんから。』




店の中を抜けて、廊下を隔てた自宅へと案内すれば、待ちきれずに押し付けられた壁に手をついて、矢継ぎ早に落ちてくる口付けは、先程よりも甘い湿度を漏らした。






「…、愛してる。」





荒げた吐息に乗せたその言葉は、私を突き落とした。





『っ私は………』








結局、私はこうなのだ。






渡せる愛は、残っていなかった。








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愛はあげすぎない。→←投げ遣るならば、囃されて。



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設定タグ:鬼滅の刃 , 不死川実弥   
作品ジャンル:恋愛
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羽糸(プロフ) - 金平糖さん» コメントありがとうございます!!他の作品も読んで頂いているんですね!嬉しいです。これからももっと楽しんで頂けるように頑張ります!! (2021年11月9日 18時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - ひよさん» そんな風に言ってくれるあなたを私は尊敬しています。コメント力が高すぎて何て返そうか悩んだけど、シンプルに、その感想が嬉しいです。読んでくれてありがとう!! (2021年11月9日 18時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
金平糖 - 完結おめでとうございます🎊私、涙脆いので目から滝が流れてくるように泣きました。他の作品も読ませて頂いてるのですが、全て私好みの作品です。本当に完結おめでとうございます!!! (2021年11月7日 18時) (レス) id: 63ca64d519 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - 完結まで本当にお疲れ様でした。原作の実弥さんならこう言うだろう、こうするだろう、と強く頷きながら読みました。どんなにしんどい内容でも、文章の紡ぎ方と言葉の選び方で昇華させるあなたを尊敬しています。読ませてくれてありがとう! (2021年11月7日 11時) (レス) id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - 衣世さん» 衣世さん、はじめまして!コメントありがとうございます。書いている私も胸が痛めつつ書いてます(笑)この後は完結まで一気に仕上げた後で公開予定です。もう少しだけお付き合いくださいませ☺️ (2021年11月6日 10時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:羽糸 | 作成日時:2021年10月24日 0時

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