3話 ページ4
その返答を聞いて、男──カリム、だったか。
そいつは痛々しげに顔を歪ませた。
「そっかぁ………なあジャミル、見てくれよ」
馬車の中から、また従者らしき黒髪の、ジャミルとやらが顔を出す。
「Aにそっくりだと思わないか?」
「まあ、確かに幼少期の彼女の特徴はあるし、似てはいるが……
エマ様とA様が失踪したのは12年前だぞ?」
その後もよく分からない話題をこそこそと繰り広げる二人。
………もう逃げていいかな?(駄目です)
クラウチングスタートの姿勢を始めれば、ガーネットアイの男がこちらをぐるんっと元気よく振り向いて。
「よし!着いてこい!」
「「は?」」
私と従者の声がぴったり重なる。
瞬く間に腕を引っ張られて馬車に乗せられ、ガタゴトと揺られることになった。南無三。
「お前、名前は?」
人懐こそうな笑顔で問いかけてくるカリムとやら。貴方のあだ名は太陽かな?
「A。名字は教えてもらってない」
「教えてもらってない?」
怪訝そうな顔をする、黒髪のジャミルとやら。
先程からこちらにはいささか警戒されている気がする。カリムはあっけらかんとし過ぎてるが。
スラム出身の私を同じ馬車に乗せる所からクレイジーだとは思うけどね。
「そう。
唯一私の名字を知ってたお母様が、教えてくれるっていう約束の日の三週間前に病気で亡くなったの。肺炎が思いの外進行しちゃってたらしくて」
「「そのお母様の名前は!?」」
瞬間、すごい食い付いてくる二人。
圧と勢いがすごくて、思わず後ろに少しのけ反ってしまった。
「確か……エマ・ラーディア。ラーディアっていう旧姓しか教えてくれなかった」
お母様の出身は夕焼けの草原だから、ラーディア家も探せなくて、と首をすくめる。
私達スラムの人達は外まで交遊関係がないし、情報屋もお手上げらしかった。
そして、目の前の二人がすごい顔をしてアイコンタクトをしてるのを、私はキョトンとしながら反対側の座席から見ていた。
その時の私は、そんなことより、この馬車はどこに向かっているんだということをずっと考えていた。
今考えてものんきなものだが、こういうときはそんなことを考えてないとやってらんないのだ。
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マザーグース(プロフ) - ルイさん» 嬉しいです………頑張りますね! (2021年3月27日 12時) (レス) id: 446891bd7a (このIDを非表示/違反報告)
ルイ - うわぁぁぁぁめっちゃ好きです!更新頑張ってください!! (2021年3月27日 3時) (レス) id: 719e5dac86 (このIDを非表示/違反報告)
マザーグース(プロフ) - 碧生さん» ありがとうございます!!更新頑張りますね!! (2021年3月19日 15時) (レス) id: 446891bd7a (このIDを非表示/違反報告)
碧生(プロフ) - 凄く面白いです!更新待ってます! (2021年3月19日 9時) (レス) id: 7ffc4172b1 (このIDを非表示/違反報告)
マザーグース(プロフ) - ドさん» ありがとうございます。リアルが多忙なため遅くなっておりますが、じきに受験が終わるので更新ペースが上がります。ですので、これからもよろしくお願いします! (2021年1月28日 12時) (レス) id: 446891bd7a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:マザーグース | 作者ホームページ:
作成日時:2021年1月3日 21時