【まほやく】雪降る科学者のソナタ (ページ10)

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『はい、着替えましたよ。』

｢着替えてたねー！｣

｢わっありが……ムル？！そっ、いやいや、普通女性の着替えは覗いちゃダメです！本当にすみませんAさん……！｣

再びペコペコ頭を下げる賢者に今度は憐憫の情が湧く。魔法使いたちが自由すぎて尻拭いの謝罪癖が付いちゃってるんだな、ただでさえ異世界からやってきて不安だろうに大変だ。着替えと言えど上にガウンを羽織っただけなので、気にするなと言う代わりに彼女の手を引きリビングへ向かう。

リビングには思ってた2倍の数の魔法使いが居て、その中にはブラッドリーも当然居た。彼は私に気がつくと隣に座る魔法使いたちに"アレが例の女だ"と言わんばかりに目配せをする。気分悪い、一夜を過した仲(曲解)なんだから堂々と紹介して。

何も話さないのも気まずいと思ったので(なんで家主の私が気まずさを感じているのかは置いといて)、軽く自己紹介を済ませて家内は備品を壊さないなら自由に調べていいという旨を簡潔に伝えた。｢俺は○○！｣｢僕は××と言います｣みたいな自己紹介茶番を絶対にしたくなかったので、その場を足早に立ち去る。

｢ねえ、待って。｣

ブラッドリーの隣に座っていた灰色の髪の青年が突然目の前に現れた。全体的に出で立ちが真っ白だ、強そうだしこの人は多分北の魔法使いなんだろう。

素直に立ち止まると彼は私の目を凝視し始めた。普通に怖すぎる。いきなり抉られたりしないだろうな、困るからせめて代わりの目を用意して欲しい。

『あー……目、黒いですよね。あんまり光も入らないのでテラも気に入ってました。私も気に入ってるのであげませんよ。』

｢は？要らないよ。星空の見えない夜みたいな色で気分が悪いから、いますぐ両目を抉ってやりたいくらい。ただこれをアイツが好きだったのが、なんか変だなって思っただけ。｣

もう行けば？と自分から引き止めたくせに私を突き飛ばす灰色髪。嫉妬か？残念ながらテラは私の事が好きで私のために死んだのでこの勝負は私の圧勝だ。寂しそうな背中に一瞥をくれてやり、言われた通り私はその場を後にした。

……テラも同じこと言ってたな。北の国の曇った夜みたいな瞳で落ち着くだとか何だとか。あの人は本当に私にベタ惚れだったから私の容姿を全て何かに例えてた。西の魔法使いみたいな性格だったから、確かにこういう暗い色を好むのは意外なのかもなぁ。

途端、急に言いようの知れぬ孤独を感じ、私は足早に部屋へと向かったのだった。