【まほやく】雪降る科学者のソナタ (ページ5)

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.(賢者視点)

その夜、フライドチキンにかかった胡椒によるくしゃみで飛んでいってしまったブラッドリーをミスラが面倒くさそうにアルシム(動詞)しに行き、残ったメンバーはシャイロックの酒場でカクテルを嗜んだり自室に帰って眠ったり額縁の中から文句を垂れたりと各々自由な時間を過ごしていた。というかブラッドリーが飛んでいく先ってランダムだからアルシムあんまり意味無いシムなのでは……？

私は休む気にもなれず、かと言って特に出来ることもないので、中庭を行ったり来たりして忙しなくウロウロしていた。完全に不審人物である、賢者なので許していただきたい。

｢……王族様だったらどうしよう。私、貴族のマナーとか本当に分からないんだけど……。元々はただのOLだし……。｣

私は脳内でシュミレーションをしていた。

＿＿あった！あれが想い人さんの住む家だ！こじんまりしているけど温かみのある、可愛らしい家！ノックをしてみるとあらびっくり、ふわふわとした髪を揺らしながら控えめに微笑む女神のような女性がそこに！思わず抱きしめたくなる衝動を抑え、私は恭しくかしずいてこう言います。

｢……わ、私と暮らしませんか！｣

｢にゃおーん！良いよー！｣

横から聞こえてくる猫のような声に思わず1mくらい横に飛び退いた。今の聞かれた？てか私はなんで見ず知らずの相手にプロポーズなんかしてるんだ、アホすぎる。

当の本人はさして気にした様子もなくクルクルとその場で宙返りをしてみせた。彼なりに明日の依頼を楽しみにしているようで、クロエが作ってくれたモコモコのコートを早速着ている。とても愛らしい、よく似合っている。クロエのセンスとムルの顔面は天才だと思う。

｢賢者様は誰かにプロポーズしに行くの？｣

｢し、しませんよ。明日の依頼に向けて集中力を高めていたんです。人に会いに行くなんて中々無いですから……。ムルは向こうに着いたらやりたいことはありますか？｣

｢うーん、ガラスを全部割っちゃう！パリーン！｣

彼が手をパッと開くと頭上からパリッと軽快な音がした。私が驚いて上を向けばファウストが恨めしそうにこちらを見下ろしていた。彼は浅く溜め息を吐き、｢早く寝なさい。｣と簡潔に言い残して窓ガラスを魔法で修復した。

ムルは特に反省した様子もなくにゃおーん！と一鳴きするとふわりシャイロックのバーへと飛んで行ってしまった。

……不安だ、何とかなるのかな。