【まほやく】雪降る科学者のソナタ (ページ12)

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灰色髪が居なくなってからというもの、夕陽が傾くまで部屋に軟禁されていた。一応私が家主ではあるのだが、流石天下の賢者様ともあろう方は多少の権利侵害は物ともしない。23歳の幼子になんて酷いことするんだ。

くあ〜と欠伸をしながら東の陰鬱な魔法使いが書いた論文を地面へと放る。東の魔法使いは基本的に人嫌いだから魔法科学をボロクソに言ってくれる、そういう点で私は東と、あとは北の魔法使いが好きだ。

「＿＿A、今日のところは調べ終わったから出てきていいぜ。てかお前もリビングに居ろよ、部屋に閉じこもるんじゃ流石のお前でも気分悪いだろ。」

『特に話すことも無いから良……今日のところは？明日もあるってこと？』

「おう、ついでに明後日もその後もずっとだ。」

広い家を建てたのが仇になったか。舞い込んだ大金に浮かれ気分のまま依頼したので我が研究所兼逃避先は金持ちの別荘くらい大きい。最悪なことにこの人数なら余裕で泊まれてしまう。

私が『本当に面倒臭い』とぼやけば元気出せよ、と頭をわしゃっと撫でてくるブラッドリー。昨夜いきなりお前が来たせいで風呂すら入れてないんだから触らないで欲しい。

「あ、えっと、Aさん、本当にすみませんこんな時間までお部屋に居てもらって……！お礼と言っては何なのですけど、お食事の方ご用意させて頂きました！冷蔵庫の中身は勝手に使ってないです！お口に、合えば、良いのですけど……！」

魔法使いたちは私なんて気にすることも無いように、各々自分の好きな時間を過ごしていた。その中で賢者だけが私を見ていたのが妙に印象的で、彼女が人に好かれるのも分かるような気がした。

私よりずっと背の低い彼女は串で刺された生ハム巻きの皿を持っていた。食べろってこと？傲慢だな、仕方ないから食べてやるけど。

『しょっぱ。』

「っご、ごめんなさ」

『丁度いい酒入ってるから最高。賢者様はお酒飲める？飲まない方がいいかもねえ、嫌な魔法使いたちに襲われちゃうかも。』

嫌味混じりに行ったのだが、彼女は理解出来ていないようでくすくすと笑ってみせた。可憐で可愛らしいな、私が魔法使いだったら取って食べちゃいたいくらい。

魔法使いの何人かの視線を感じながらも、私は賢者様に少食であることを伝え、「特に私に食べさせたいものだけ持って3階のテラスまで来て」と言い残してその場を去った。相手が魔法使いであろうと人間であろうと大人数での食事は苦手。