【まほやく】雪降る科学者のソナタ (ページ11)

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『……で、何で来た？』

｢うるさいな、別に良いだろ。｣

部屋に戻りクソほどつまらん政治新聞を読み始めてから30分程経っただろうか、突然バン！とドアが開け放たれズカズカと先程の灰色髪が入ってきた。しかもかなり不機嫌そう。北の魔法使いはドアの正しい開け方も知らんのか、テラはいちいちノックに合わせて歌ってたよ。

特に構うことも無いか、と無視して紙面を捲ると彼は音に釣られたのか猫のように私の周りをうろちょろし始めた。気が全部散ったので一旦新聞を起いて、他に椅子が無いので脚立に座るよう促した。

『騒がしいのは嫌い？』

｢フン、好きな奴の方がおかしいよ。頭がおかしくなったみたいで気持ち悪いだろ。静かで、変わらない物の方が｣

彼は好き、とは言い切らなかった。魔法使いは言葉を大事にすると聞いた、容易に断定など出来ないのだろう。強い魔法使いであればあるほど言葉を選んだり寡黙になったりするらしい、全部テラからの受け売りだけど。

彼に深入りしないよう、彼の尊厳を肯定するよう、ふーんと適当に相槌を打つ。彼の興味が私ではなく部屋に移ったことを確認し、私は再び新聞に意識を落としていく。

ぺらと私が新聞を捲り、暖炉で薪の水分がパチパチと爆ぜ、彼が時々気になった器具や天球儀を触ったり弾いたりする。

時がいつにも増してゆっくりと流れているようで、魔法使いと過ごすことの特異さを再び感じる。彼と私では時の流れが違い、奇しくも人間は、少なくとも私は魔法使いの波長に合わせてしまうのだと思う。たまには悪く無い。

｢ねえ。｣

『何？』

｢何か甘いの無いの？この部屋。｣

『あるよ、糖分は必須。』

彼が寄越せとばかりにこちらを睨んでくるので、仕方なく机横のカゴから角砂糖が入った布袋を取り出し、ガサツに投げて渡す。

彼は暫く硬直した後、｢こんなの食べてるの？おまえ、人間なのに？｣とやや引いたような顔で角砂糖を頬張った。人間が全員豪華なスイーツにありつけると思わないで欲しい、私は糖分補給が主な目的だから角砂糖が1番早いのだ。

｢……口開けて。｣

『？グエッ』

背後からいきなり口内に手を突っ込まれ何かを入れられる。それは少し硬かったが、口の中でやがて溶けて無くなった。ほのかに甘い、後味はすっきりしていて、少しひんやりしている氷砂糖のような物だった。

私が普段食べてるのとだいぶ違う……？あっこれもしかして

『ねえ、これって

＿＿あれ、居ない。』

私は小さく虚空に感謝を述べ、新聞をカゴに放った。