6.「あの人は」 ページ8
「お兄ちゃん、みて！」
小さい頃の私は、いつも兄にくっついてばかりであった。
兄はそんな私に対して嫌な顔ひとつせず、にっこり微笑んで私の相手をしてくれていた。
「おお、似顔絵か？すごく上手じゃないか！」
優しい眼差しに見守られ、心が温まってゆく。
そんな、素敵な兄。
「えへへ！お兄ちゃんの似顔絵だよ！にてるー？」
「ああ、一目で俺ってわかるよ！……Aは芸術の才能があるよなあ、」
嬉しそうに目を細めて、兄は私の頭を撫でた。
それにつられて私も目を細めた。
その時が私にとっては一番の幸せであり、心を潤すオアシスそのものだった。
「……額縁、探してくるからな。折角かいてもらったんだから、ちゃんとしたものに入れないとな」
兄はいつも、私からのプレゼントを大事にしまっておいてくれる人だった。
知り合いからもらったものも勿論大切にしていましたが、私からのものは特に大事にしてくれていたのだ。
「……よし、完成！……これ、大切にするからね。」
そう言って、また私の頭を撫でてくれるその人。
艶やかな黒髪がその度にすこしだけ揺れ動いていて、私の脳裏に焼き付いていく。
ああ、私もこの黒髪になりたい。
優秀で優しくて、美しい。
私はいつしか、彼の魂自体に恋をしていたようだ。
だから、ここまで執着していられるのだろう。
「………おにいちゃん、すき！」
私が本気でそう唱えれば、兄は決まって
「俺も好き」
と微笑むだけだった。
互いの、その言葉の意味は決して交わらなかったが、それでも私は幸せであった。
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作者名：竹ノ狐。 | 作成日時：2016年1月29日 0時
