1.「魂おばけ」 ページ3
大切な人の魂を探して、何年が経ったのだろう。
軽く100年は経ったのだろうか?
……いや、それにしては現世の時代の進みが遅い気がする。
私があの世の住人というものになってから、現世は飛躍的に移り変わっていった。
昔大好きだった花畑も、心安らぐ田舎風景も、現世の中心部である“都会”の華やかな可憐さも、全て消えてしまった。
花畑は早々に芽が全て摘まれて民家が造られていったし、都会は喧騒渦巻くガラクタとなってしまった。
田舎風景は辛うじて姿自体は残っているものの、かつてのほのぼのとした緩やかな時間はもう、そこには残ってはいなかった。
どこもかしこも忙しない。
意味もなく命を絶ち、亡者になってから酷く後悔し「帰りたい」と嘆く者は数知れず。
私はそんな可哀想な亡者たちの魂を、亡者たちの描く夢の中に閉じ込めてゆくことを趣味とする、所謂怪異ともいえる亡者である。
人間からは、「魂おばけ」と称されているらしい。
可哀想な亡者を夢の中に閉じ込めるというのはただの建前で、本当は愛する人の魂を探している、未練たらたらな亡者なのだ。
人間自体に危害を与えてしまえば、いずれどうなるのかということくらいは理解している。
地獄の底から這い上がってきた鬼たちが、私たち亡者を追いかけ回し、捕まえて牢屋へ閉じ込める。
なんだ、考えてみれば私と似ている。
私も、罪のない亡者を追いかけ回して、捕まえたものから夢の中へ閉じ込める。
閉じ込められた亡者たちは、楽しそうな顔を浮かべてはいるが、幸せそうにはしていない。
まるで、全てが嘘に騙されていることを見透かしているかのように。
だが、所詮は夢の中だ。すこしずつ錯乱していったなら、そこはもう楽園なのだ。
どこまでも可哀想な、亡者である。
「……、ん…?」
山奥にある森の樹木に腰を掛けて魂たちを見つめていると、1人の女の亡者が山奥へ走っていくのがみえた。
負のオーラを撒き散らし、しかしどことなく悲しげな女性。
見た目からして、まだ若いのだろう。
生者だったころの私の方が、幾分若かったのかもしれないけれど。
「……あ、」
その魂のオーラに惹かれ、気がつかれないように後をついていった。
あの人の、魂も閉じ込めてしまおう。
よくない風が、吹き始めていた。
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作者名:竹ノ狐。 | 作成日時:2016年1月29日 0時