9.「無造作」 ページ10
「今日……実質昨日から仲間になったA様です。今はまだ会話は難しいですが、どうぞ仲良くしてくださいね」
審神者さんの声が、僕の耳にひびく。
目の前にはたくさんの刀剣男士たちが私のことを見ている。
……ああ、怖いなあ、なんて。
「………よ、ろし……っ、」
試しに声を上げてみようと試みたが、何故だか思うように声が出ない。
尤もそれが恐怖からなのか、緊張からなのか、あるいはもっと別な何かなのかはわからないのだが。
反応を示したくても、体が鉛のように重く動けないのだ。
「A様、今日は私の隣に居ましょうか。……それとも、なにか所望することがあったり?」
審神者さんはとても親切な方だ。
こんな僕を見捨てないで面倒を見てくれるし、今日だって部屋から出られるように配慮して下さるし。
その希望に応えることを所望する、と応えたなら、彼女は喜んでくれるのだろうか?
僕は貴方の隣にいたい、という意味を込めて彼女の袖を握った。
「………、わかりました。それじゃあ、朝餉にしましょう!」
何が台に並べられているのかは皆目見当がつかず、食事に手をつけることもできなかったが この布がなかったところでどちらにせよ食事の仕方を心得てない故、食事はできなかっただろう。
この布は、外してはならない。
さらにいえば、この上着もだ。
僕の顔の全貌を見たものは、僕に惹かれ そして堕落し、醜い争いを経て、必ずしぬ。
あの主もそうだった。
一つ前も、そのさらに一つ前も、ずっとずっと。
ああ、あの本丸の主も、きっと。
とどのつまりは「呪われた刀」なのだ。
それ故、実戦には向かないだろうし、戦自体も全くと言っていいほど経験がない。
名工五条国永によって打たれた名刀、だというのに。
……、兄様は僕のことを、覚えているだろうか。
あの素振りからすれば、きっと気がついてはいない。
それもそうか、なんといっても僕と兄様は双刀として打たれて間もなくしてお互いに違う主の元を転々としているし、一度同じ主の元に辿りついた時があったが、その時僕は大分女らしかった上にずっと飾られていた。
……、硝子細工の箱から出ることは、許されずに。
兄様は青空の元で羽を伸ばし、僕はいつまで経っても飛ぶことはできない。
ずっとずっと、「箱」のなかに閉じられ、出されたと思えば主を変えて箱にいれられ。
ずっと、そんな兄様のことが羨ましかった。
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名無し - これを書いてないで、おそ松さんのを更新してください。お願いします。ほんとに楽しみなんです。お願いします。 (2019年10月12日 17時) (レス) id: 01d7da7a06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竹ノ狐。 | 作成日時:2016年7月4日 0時