【刀剣乱舞】おうちに、かえして。 (ページ1)

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pro.「失敗作部門優良賞」ページ1

むかしむかしあるところに、刀をつくる名手がおられました。

その名手はてきぱきてきぱきと刀を打っていき、すぐれた刀を作っていきました。

そんなある日のことです。

名手は、帝におわすために双刀とよばれる二振りの刀を打ちました。

ひとつは、出来てすぐに帝へ渡ったあと、いろいろなところを転々と。

ひとつは、出来てすぐに帝へ渡ったあと、いろいろなひとが奪い合い。

その、いろいろなひとが奪い合った刀を、名手は人生最後の名刀として、作り上げました。

鶚(みさご)をイメージして作られた、白と黒の対比がとても美しいとされた名刀を。

帝は即座に気に入り、鶚を都の宝刀として飾りました。

気がつけば鶚は、一目見た者の目を惹いてしまう、妖刀のような存在へと姿を変えていきました。

それほどに、彼女は美しかったのでしょう。

それゆえに争いが起き、やがて来る戦国の世を震わせるほどになり、鶚は誰の目にも留まらぬよう、深い土の中へと埋められてしまいました。

そうして長い長い年月が経ち、誰にも戦姿を見せることなく、惨い人間だけを見つめて生きてきた鶚はとうとう土の中で錆びてしまい、誰にも知られることなく消え去ってしまったとさ。

めでたしめでたし。

＊

「……Aっ！」

主に、名前を呼ばれた。

僕は笑顔でそこへと歩いていき、主に抱きつく。

近くには砕け散った刀剣がいくつも重なって、主の足に刺さってしまいそうで少しだけ怖かった。

そうしてせいふ、の人達がその刀たちをそそくさと拾っていった。

「君だけは、何があっても破壊させない。ほかのヤツらなんてどうだっていい。……A、君が一番なんだ。いつかまた、君を呼び戻すから……、それまで、」

主はそこまで僕に告げて、どこかへと連れていかれてしまった。

大好きな主。
僕を大事にしてくれた主。

「Aさん。この本丸はもう使えないほどに傷んでしまっています。わたくしめに着いてきてください。」

政府の人にそう言われたが、何をしていいのかわからず、首をかしげた。

「……なんで、ぼくもあるじさまといっしょに、いく」

いつの間にかまともに言葉も紡げなくなった刀剣を、主の他に誰が愛してくれるというのだろうか。

刀剣たちにすら煙たがられ、目の前で折られ、そうして僕だけが抱きしめられる。

それが、今世における「幸せ」であると、僕の脳みそは覚えてしまっていた。

「もう、ここにはいれない」