桜が7輪 ページ8
蝋燭がゆらゆらと部屋を照らす
微笑む沖田さんに、不覚にもドキッとしてしまった
沖田「神夜、今だけでもいい
俺の事を普通に呼んでくれねーか？」
普通に
貴「お……沖田さん…？」
そう呼ぶと一層嬉しそうに笑うから
私は………
沖田「俺の事が好きか？」
貴「……………ええ、
けれど、この夜が終われば
………終われば………
わっちらはただの他人でありんす」
そうだ
勘違いしては行けない
私は遊女
彼は客
ここは嘘だらけの恋愛
私が彼を好きというのも
彼が私を好きと言うのも
すべて幻でしかないの
沖田「本当に……そう思ってんのかぃ？」
貴「はい、それがここ
吉原でありんす」
何故か……私は俯き、彼の顔が見れなかった
沖田「分かりやした
それが神夜、オメーの気持ちなんだな」
ズキリと心が痛む
大丈夫
きっと彼の事は忘れられる
沖田「………もう1つ……いいか…？」
貴「…………はい」
沖田「キス…………してぇ」
貴「っ…………はい」
私は目を閉じて、彼を待った
すぐに彼の吐息を感じ
唇が触れ合う
触れ合うだけのキス
離れてしまうと
心にポッカリと穴が空いてしまった様な心地になる
彼は、私の紅が移った唇を拭い
拭った指をペロッと舐めた
沖田「ありがとな、神夜
俺ぁもう行く」
貴「見送りしんす」
廊下を歩く時
彼の背中が酷く遠くに感じて
苦しかった、
門まで来た
沖田「じゃあな、神夜」
貴「はい、………
またお越しになってください
待っておりんす」
沖田さんは微笑むと
沖田「神夜
オメーは泣き顔も綺麗だが
笑顔のほうが似合うと思うぜ」
私の頭に手を置くと、背を向けて行ってしまった
一度も振り向かずに
その後から、沖田さんは来なくなった
毎日来ていたのに
全く顔を出さなくなった
日が過ぎるごとに募るこの……
会いたいという思い
私は吉原の遊女なのに………
なのに………
彼を好きになってしまった
人を好きにさせておいて
もう、会いにも来ない
残酷な人
いや、私もだ
彼を突き放したんだから
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作者名：花みたいに | 作成日時：2019年5月18日 16時
