三強/とある一家の御茶会議(くるりんご)◎ ページ11
女は勢いよく起き上がり、目の前がしっかり現実かどうかを確かめる。
『奇妙な夢だな……』
頬を伝う汗がやけに冷たく、気分が良いとは言えない。
奇妙な夢、それはウィリアムとジョセフが作り上げたとある名作が終わることなく永遠に再生されていた。追いかけられているみたいで、身体が不自由な女からすれば逃げることが出来ない。夢の中くらい自由に動いていたいものだ。そうため息をついて杖を付きながら支度を始めた。
今日は誰と御茶会議だったかな。
三時頃、女は当国の軍の書記長と丸いテーブルを囲んで座っていた。女は紅茶を啜る彼の顔を見つめていると、それに気が着いた書記長は首を傾げた。
「…どうしました？まさか、また良からぬこと考えてんるんやないやろうな？」
『フフ、いや。大丈夫、もう誰も彼も傷つけたりだなんてしないさ』
笑顔で言うも、彼は疑いの眼差しを向けるのを辞めない。女は苦笑いを溢しながらカップに角砂糖を三つ投げ入れマドラーでかき混ぜる。
また、とは。女がまだ若い頃、彼女は猟兵で戦争で銃口を人に向け、何人もの人間をこの手で殺めてきた。しかし彼女はただの猟兵では無かった。国を転々としては裏切って、自分のためなら手段を選ばぬ冷酷な戦士だった。
とある国で見つけた彼らを気まぐれで拾い、育てていた時はだいぶ落ち着いていたが、たまに戦争に出ることだってあった。
トントンたちはそれを知っているのだ。
大好きなケーキを突きながら我が子のように愛している彼に、彼が幼い頃の話を持ち込んだ。
『昔はお前さんにも可愛げがあったのにねぇ。なんだったかな…忘れてしまったけど、ある本を読んであげたら海の底の遺跡を冒険したいって言ってたっけねぇ』
「いつの話や…Aさん、俺のことより自分のことを気にしてくださいよ」
『フフフッ、本当に優しい子だこと』
子供扱いすんなと顔を逸らされてしまうが、Aは微笑んだまま彼を見つめた。
呆れたように溜息を吐くトントンはもう一度紅茶を喉に流し込んだ。
『私のこと嫌いになった？』
目を伏せながらそう聞くと、トントンは黙ったまま目の前に座る女の髪に触れた。
Aは驚き、顔を上げると優しい顔の彼と目が合った。
「嫌いならこうしてお茶してへんよ、母さん」
女は心底安心した。今日もしっかり世界は廻っている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
色樹 - 嬉しいです!!いくらでも待ちますよ! (12月24日 8時) (
レス) id: 09f29be611 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - 色樹さん» リクエストありがとうございます！返信が遅れてしまい申し訳ありません…！ (8月23日 12時) (レス) id: b86c248f05 (このIDを非表示/違反報告)
色樹 - ２回目なのですがzmさんでデーモンロードってよろしいですか?あとgrさんでシャドーシャドーもできたらおねがいします!! (8月5日 21時) (レス) id: 09f29be611 (このIDを非表示/違反報告)
ミアン - あまり無理しないで下さい！いくらでも待ちます！！ (2023年4月28日 18時) (レス) id: 5384c31615 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - ミアンさん» リクエストありがとうございます！大分溜まっているので長らくお待たせしてしまうかもしれませんが…頑張ります！ (2023年4月26日 17時) (レス) id: b86c248f05 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：aoi | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/airio08191/
作成日時：2022年11月30日 20時
