■103.名残惜しい残り香 ページ23
***
Naoki Side
俺は父さんの警察手帳だけを持ち帰り、
満身創痍で家に戻った。
.
彼女の姿はなかった。
俺が彼女に酷いことを言ったあの日から、
ちゃんと顔を合わせていない。
買い物に行ったか、
川田レンにでも会いに行っているのだろう。
.
とにかく今は何も考えられない。
燃え尽きた。
脳が考えることを放棄している状態。
力なく椅子に座り、
なんとなくつけたテレビをボーッと見つめていると、
8年前のコアラ男誘拐事件は自作自演であり、
森島哲也は犯人ではなく、
その森島哲也を殺害したのは自分である、
といった内容を佐島が語っているビデオメッセージが
ニュース番組で流れていた。
.
俺はリモコンでテレビを消して、
ベットに横になった。
.
パンダのぬいぐるみを抱きしめると、
ふわっと甘い香りがした気がして、
ｽﾝ…、と鼻を近づけてみた。
するとやっぱり、甘い香りがする。
俺はこの香りがなんなのか知ってる。
Aはこれをずっと抱きしめていたのだろう。
.
同じ家に住み、同じものを使っているはずなのに、
彼女はいつも甘くていい匂いがする。
…うわ、なんか変態じみてるな…、自分。
元々俺が貰ったぬいぐるみなはずなのに、
こうして抱きしめて顔を埋めていることに
若干の罪悪感が芽生える。
.
…そういや最近あまり眠れていなかった。
精神状態もボロボロで、
Aとも全然話せてなくて。
俺は押し寄せてくる眠気に抗えず、
パンダを胸に抱いたまま気を失うように眠った。
***
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作者名：紙兎
| 作成日時：2020年3月16日 7時
