□35.見えない線引きと牽制 ページ35
***
怖かったらくっついてもいい
って言われている今なら誤魔化せる。
流れに便乗して、
ここぞとばかりに彼に抱きく腕に力を込めた。
.
直輝｢…今は怖いシーンじゃないけど？｣
｢…私にとっては怖いシーンなの…。｣
直輝｢…はいはい、笑｣
何かを悟ったのか、呆れたように笑った直輝が、
私の頭をﾎﾟﾝﾎﾟﾝと優しく撫でてくれた。
.
｢……なおき｣
直輝｢ん？｣
｢…なんでもない。｣
.
もしこれが本当の恋人同士なら、
何も理由がなくてもぎゅってできるし、
愛しいなって思った時に、
何も隠さず好きって伝えられるだろうし、
したくなればキスをして、それ以上のことだって…。
…って、こんなふうに考えてしまう自分が嫌だ。
.
.
多分直輝は、
あずささんに対して恋愛感情みたいなものは抱いていないのだと思う。
彼女は直輝のお父さんが殺される原因に
なったかもしれない“コアラ男”に誘拐された被害者で、
法務大臣“佐島源造”の一人娘だ。
お父さんの死の真相と復讐のためには手段を選ばない直輝にとって
情報収集のための道具でしかない。
.
それを知ったうえで私が彼に思いを伝えられない理由は、
単に私に関係を変える勇気がないということと、
あずささんと付き合っている理由の一つに、
私への牽制、というのも
少なからず含まれていることを知っているから。
***
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作者名：紙兎
| 作成日時：2020年1月21日 0時
