. ページ5
'
空だった互いのグラスにワインを注ぎ終わると、何かを思い出したような河村さんの声がした。
「あ、ねぇ、言い忘れたことがあるんだけど」
「何ですか」
「ちょっと、」
そう言って少し縮まった距離にどきりとしながら、小声で話す河村さんに合わせて耳を近付ける。
「実はさぁ、その日は君とのデートのつもりなんだけど、」
「っ、えっ？」
「だから、可愛くしてきてね」
「あの、」
「まぁ着飾らなくても十分可愛いけどさ」
「ちょっと河村さん、」
Aちゃんは何着ても似合うよね、と離れていった河村さんがワインに口をつける。
どこか満足げな表情なのとは逆に、瞬きしかすることの出来ない私の表情はどんなものだろう。
グラスに映る頬の赤は、ワインか酔いか。
「はーあ、頑張ったら何だか眠くなってきちゃったよ」
「え？」
「まだこの会終わるまでは時間掛かるでしょ？ちょっと休憩」
「いやあの、」
「起こすときちゅーとかしてくれてもいいけど」
「ちょ、っと、！」
「ごめんごめん、冗談」
しばらくおやすみ〜と壁に寄りかかった河村さんからスゥ、と寝息が聞こえるまで、しばらくそのまま思考が停止していた。
記事の取材に誘われたと思ったらそれはデートで、寝るからキスで起こしてくれだなんて、どこか出来すぎた漫画のようで、一口飲んだワインが喉を焼く感覚に現実を求める。
はたと気付いて周りを見渡すけれど、みな相変わらず目の前の会話にばかり意識が飛んでいるようだった。
飲み干したワインの甘味をゆっくりと反芻したあと、いつのまにか添えられていた手を握り返す。
酔いか眠気か、その手はいつになく暖かかった。
.
彼女と僕だけのアクト:kwmr→←全て本音と捉えて欲しい:kwmr
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 200人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「短編集」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
キタ(プロフ) - あんころさん» ありがとうございます！キャラが定まってない感じもありますが大丈夫でしたでしょうか…？どうしても不定期になってしまいますが、更新の予定はありますのでまたよろしくお願いします(*^^*) (2020年4月6日 1時) (
レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
あんころ - kwmrさんだいすき人間なのですが、どれも好みどストライクでもう…！！！キタさんのペースで頑張ってください！応援しています！！ (2020年4月2日 2時) (レス) id: 4b7a069960 (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - ぽさん» お返事遅くなってしまってすみません！一作目からありがとうございます。更新も不定期ですが、なんとかご期待に応えられるように頑張りますので、今後もよろしくお願いします。 (2019年12月9日 21時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
ぽ(プロフ) - キタさんお久しぶりです＞＜「平凡、即ち人生」がドストライクすぎました、、！！キタさんの書く文章が大好きです:-)これからも応援しています。 (2019年12月5日 20時) (レス) id: 7700f16782 (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - ちるさん» コメントありがとうございます。沢山のお褒めの言葉をいただけてとても嬉しいです。マイペースにはなりますが、色々と更新していきたいと思います。今後もよろしくお願いします！ (2019年10月31日 23時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キタ | 作成日時：2019年10月29日 14時
