空中遊泳

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先生のいない生活は、楽しいのかな。


三か月後には見られなくなる姿をどうにか覚えておきたくて、必死に先生の輪郭を目でなぞる。


「ちょっと長すぎない？」
「え？」
「そんなに見られてると流石に緊張しますが」
「あっ、ごめんなさい」
「構わないけど、別に面白くないでしょう、机に向かってるところなんか見てたって」

目線の先にいるのが先生ならなんでもいいんです、そう心で呟いて、そんなことないです、と言葉を濁す。

「授業中なら存分に見てていいのに」
「ちゃんと見てますよ」
「うん、知ってるよ」
「えっ」
「しっかり聞いてくれてる子は目立つから」
「あ、そう、ですか…」
「いつもありがとう」
「先生の授業、だからです」
「嬉しいお言葉だね」
「本当ですよ」
「大丈夫、わかってるよ」

担任だもの、そう言った先生がまたペンを走らせる。

「進学してもその調子でね」
「はい」
「僕はついててあげられないし」
「そう、ですね…」

実際そうなのだけど、直接言われるとなんとも、なんとも。

「でも卒業してしまえば自由か、どうなっても」
「え、…？」
「まあ、三月まではしっかり学校来なさいね」
「あ、はい、」


顔を上げないまま話す先生の真意はわからない。
でも今はそれでいいような気がした。


「さ、もう帰りなさい、夜道は危ないよ」
「あ、もうこんな時間、」
「気を付けて、また明日」
「はい、さよなら先生」
「さようなら」


ゆっくり手を振る先生を背にして教室を出る。

すっかり暗くなったグラウンドにはもう誰もいなかった。



卒業したら、何かが変わるのかな。
何も変わらないのかもしれないけど、ここに戻ってくることもないんだろうけど、それでも先生のことはずっと好きだと思った。


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