「ん」で終わっちゃ駄目ですよ。

夢十夜「ニ夜」【山本さん】 ページ25

こんな夢を見た。


どこか大きな寺にいる。

障子がずらりと並んでいる。



どこまでも続きそうな廊下。



一番奥の方がぼんやり灯っている。

どうやら誰かいるらしい。



提灯の灯りが木張の暗い廊下を照らしている。






襖を開けて、その部屋を覗き込んだ。


隙間は指が二本入るか入らないかくらいの細さだった。

その細さからジイッと中を覗き込むも、人はいない。



すると、横から並んだ目が二つ合わさった。


目線は私と同じ高さにあった。




そしてガバッと開け放たれた襖。


そこには、古い着物を着てニヤリと笑う青年がいた。





「入って入って。」



手招きされて素直に従う。

畳一枚分ほどの間隔で座布団が置いてある。



青年は奥の方にどかりと座ったが、すぐに綺麗に正座しなおした。



私も手前の座布団に座った。



彼以外には誰もいないのか、はたまた夜だからなのか。

水を打った様な静けさがひたすら続く。





「君は、とても頭がいいでしょ？」



なるほど、そう言われればそんな気がしてくる。

頭がいいような、秀才のような、そんな気分になってくる。




『えぇ。』



「なら、この漢字がわからないと大変だねぇ」


煽るような視線は、笑みを含んでいる。

楽しそうに笑っている。


私を小馬鹿にしている。




ペラペラとした紙に、筆で描かれたらしい。

一角一角几帳面な字で、



〈屯蹇〉



と書いてあった。





さぁ、どう読むのか。


私は必死に頭を捻った。



捻った先でも一向に答えは浮かばない。



青年はまた可笑しそうに笑って





「頭がいいなら、分からないはずはないでしょう。」



そう茶化した。

なんだか私もムキになって、


『えぇ、分かりますとも。少し大人しく待ってなよ』


と返す。

その返答を待ってましたとばかりに



「そういつまでも分からない所を見ると、本当は頭が良くないのでは？」


なんて言い出した。

こうなっては後にも先にもいけない。



「あぁ、そうだ。言うのをすっかり忘れていた。」



思い出したように続ける。



「もし解けなければ、僕の家に嫁入りしてもらうから」



今目の前のこの男はなんと言った？

嫁入り、と言ったか？



「さぁ、頑張って」




そのままその青年は、分厚そうな本に目を落とした。

置いてある時計が12時になるまでにきっと答えを出して見せよう。


名前も知らん、不気味なこの青年の嫁になるなんて。


ふざけているにも程がある。

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