執着の氷華２【ブルーロック】

６１.勝手な願望 ページ15

ｰIsagi side-











チームYの心臓は、間違いなく二子だ。
咄嗟にしたゴールの匂いは大川じゃなくて、二子からしていた。
コイツさえ止めれば、チームYは死ぬ……！！


「ナイス潔！！」


成早の声を背に、奪ったボールをドリブルしてゴールへ向かう。
左片隅、コースがガラ空きだ。
GKも、まだゴール前に戻って来ていない。
今なら、決まる！！


「あ゛」


思い切りシュートを放ったが、間一髪の所で二子にブロックされる。
ボールはそのまま軌道を変えて、左側に弾かれてしまった。
クソ！！
あと少しだったのに、外れ……














『ナイスパス、潔君』

「え！？」


一瞬の内に現れた御影さんが、外れたボールをトラップしてゴールへとねじ込んだ。
嘘だろ、絶対にフィールド外に出たと思ったのに。
て言うか、シュートのつもりだったんだけど。


点が決まった事が信じられず呆然としていたが、こちらを見て嬉しそうに微笑んでいる御影さんを目にしただけで、どうしようもないぐらい身体に熱が走った。














「っしゃあ！！」

「追い付いた！！よく反応したね、Aちゃん！！」

「Aちゃん、凄いよ！！」


蜂楽に思いっ切り抱き締められながら、國神や雷市に頭を撫で回される御影さん。
そんな皆の賞賛の声に照れ臭そうにしながらも、御影さんは確かに喜びを表していた。


あれ……？
点が入って嬉しい筈なのに、そんな事どうでも良くなるぐらい、ストンと表情が抜け落ちてしまった気がする。
胸に重りが引っ掛かったみたいに、心臓を抉られる様な痛みが容赦なく突き刺して来た。














理由なんて嫌でも分かる、御影さんだ。
俺に笑い掛けてくれた時は死んでもおかしくないぐらい気持ちが昂ったのに、今皆に笑顔を見せている事が気に食わないだけ。
我ながら、何て幼稚なのだと思う。
でも、耐えられないんだ。
ずっと俺だけのものだと思っていたから。
御影さんの優しさも、その笑顔さえも、全部自分だけが知っているものなんだって思いが俺を満たしていた。


本当は、全部俺の勝手な願望だ。


俺以外に優しくしないで、笑い掛けないで、その目に映さないで。
何で、こんな胸糞悪い感情しか出てこないんだ。


きっとあの日、俺の知らない顔で兄の話をする御影さんを見たからだ。













「……貴女は、そうやって笑うんですね」


後ろから聞こえたのは、二子の静かな声。
嗚呼、また――――俺の中で、黒い何かが音を立てて零れ落ちた。

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