嗚呼、愛しき悪役よ！【ヴィランズ手下】 (ページ7)

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鴉ページ7

「それで、鈴木さんはどうしてこんな夜中に出歩いていたのかな？ご両親は……」
「仕事です」
「そうだったね」

　目を細める丸山先生。何故だろう。彼には人の心を穏やかにするような、一緒にいて落ち着くオーラがある。いい匂いするし。漫画にしたら、周りに花でも舞ってそう。

「それで、何があったんだい？」
「……ちょっと、トラブルがあって。その後に怪しい男の人が……」

　私に話しかけてきて。

　そう言おうと思ったのに、言えない。何故だろう、物理的に言えないのだ。言おうとしても喉に焼けるような痛みが走って、とてもじゃないけど言えない。

「む、むぐぅ……」
「？」
「彼氏と、ちょっとしたトラブルがあったんです」

　諦めて、一部だけ言うことにした。

「へぇ、そうかい……」
「！」

　丸山先生の視線が、一瞬だけ氷のように冷たく、鋭く、私の髪を刺した気がして、後ずさる。でも、先生はすぐにニッコリと笑った。

「髪色、なんとかした方がいいと思うよ」
「何度も聞きましたよ、それ」

　私は髪を金に染めている。生活指導であり、担任の丸山先生には毎日のように注意されている。でも直す気はない。

　丸山先生の冷たい手が、私の髪に触れた。

「ブロンドは、正義の色。黒や紫の方が断然美しい。でも……誰かに会ってしまったんだね」
「丸山……先生？」
「まあとにかく、私のように美しくなるには黒に戻すか、あるいは誰かにやられたんだろう、そのメッシュをなんとかした方がいいよ」
「出た、先生のナルシスト」

　ん？でも……私の髪にはメッシュなんてない。それよりさっき言った、正義の色がなんとかとか、誰かに会ったとかってのは何なのだろう。

「ほら、ついたよ」
「ありがとうございます」
「いいんだよ、なんたって私は教師一の……」
「ナルシストですよね！」
「神対応だ」
「ふふふ、それでは私はこれで」

　そう言って、誰もいない家に入る。

　自室に入って、窓の外を見ると、雨の中、紫がかったカラスが飛んでいった。