１９ song. ページ20
転校早々、クラスメイトへ挨拶する際に語尾を盛大に噛むという罪を犯した心春。
同じクラスになれた環には遠慮のない大笑いをもらい、一織は窓を眺める風を装いながら肩を震わせていた。
ストリートライブで歌えるようにはなったが、あがり症なのはもともとの性質なのだろう。人前で緊張してしまうこの癖を、早く治したいと切実に思う心春だった。
スタートダッシュでつまずいた心春ではあったが、クラスメイトは優しく彼女を迎え入れ、昼休みになる頃には友達も出来た。昼食も一緒に食べることとなり、前後の席だということもあって机をくっつけてお弁当を広げた。
三月が作ってくれた、お弁当。本当はずっと大事にしまっておきたい気持ちと、食べないと勿体ない気持ちがせめぎ合った結果、ありがたく戴く方を選んだ心春。
ぱかっと蓋を開ける。すると、うさぎさんがひょっこり顔を出して、つぶらな瞳で彼女を見つめていた。
「すご、キャラ弁じゃん」
「か、か、か、可愛いです！」
「自分で作ったの？」
「い、いえ！ 事務所の先輩が作ってくださいました」
「先輩有能すぎ」
その可愛さは余計に食べづらさを助長させた。せめて写真にだけでも残したい思い、スマホを取りだす心春の斜め前の席で同じポーズを取る一織を見つけ、ほっこり頬を緩ませる。
(わかります。写真に収めたいくらい可愛いですよね。貴方様のお兄様は天才です)
生暖かい視線に気づいたのか、後ろを振り向いた一織が心春を見て顔を真っ赤にした。
「な、なんですか」
「お弁当、すっごく可愛いですね！」
「なー、ちょーかわいい。俺も写真とろー」
隣の席の環が箸を咥えながらも写真を撮り始めるのを笑って見守っていると、未だ頬の赤い一織が心春を横目に見た。
「折角兄さんが作ってくれたんですから、残さず食べてくださいね」
「もちろんです！ひとくち１００回は噛んで味わいます」
「そんなことしていたら昼休みが終わります」
「では５０回にします！」
「……本当に貴女はお馬鹿ですね」
最期に溜息を吐いた一織は、さっさと前を向いて食事をはじめた。
なぜ？ と首を傾げる心春に、友だちの秋菜が小声で「和泉くんとまともに話す女子初めて見た」と驚いていた。
「一織くんは女の子とあまりお話しないのですか？」
「女の子と言うか、男子ともあんま喋らないイメージ」
「なるほど……人見知りなのでしょうか」
ちょっと親近感が湧いて嬉しくなった、お昼下がり。
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作者名：冬眞 | 作成日時：2021年7月3日 13時
