【アイナナ】リトルシンガー (ページ19)

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１８ song. ページ19

「森川さん！こちらに来てください！」
「は、はい！」

　大きな声で名前を呼ばれ、心春は急いで食卓につく一織の隣に腰掛けた。
　手術を始める医者のように手のひらを向けられ、素直にネクタイを乗せる。「……失礼します」と一言断りをいれてから、ネクタイを心春の首元へかけた。

「いいですか、よく見ていてください」
「はい！」
「まずは左右これくらいの長さに調整して、長い方をこうして一周させて」
「ほほう」
「上からくぐらせて、こう引っ張る」

　きゅっと最後に整えると、綺麗な台形が出来ていて、感動で「ふおお」となんとも言えない声を発する心春に、一織はジト目を返す。

「なんです、その情けない声は」
「す、すみません、あまりにも一瞬で出来て魔法みたいだなって思いまして」
「こ、これくらい誰だってできますよ」

　頬を紅潮させた一織は、ふいっと顔を逸らしてそう言う。

「さあ、一度ほどいて今度は自分でやってみてください」
「ええ！ほどいてしまうのですか！？せっかく一織くんが綺麗に結んでくださったのに……」

　もったいない、とそっと結び目を撫でると心春の頭上から「んん゛ッ！」と謎の咳払いが降ってきた。

「そんなの、いつでも結んであげますよ！！」
「あ、ありがとうございます！」

　激しい物言いながらも優しい一織の言葉に、心春は嬉しくなってへにゃりと笑ってお礼を告げた。

「なんだかんだ言って、イチもハルに甘いよなあ」

　ぼそっと呟かれた大和の言葉に、心春と一織以外はうんうん、と頷いた。

　それから、少し遅れて起きてきたナギや環と挨拶をして、三月の作った美味しい朝食を皆で食べた。朝からほっこりした気持ちになりながらご飯を食べ終わった心春は、しゃきっとした一織と寝ぼけ眼の環と一緒に学校へ登校するべくローファーに足を通した。

「ほら、弁当」
「ありがとうございます、兄さん」
「みっきーあんがと」
「これは、心春の」

　そう言って三月は桜色の包みに入ったお弁当箱を心春へ渡した。

「わたしの？」
「そう。お前、今まで不摂生してきた分、昼もちゃんとしたもの食べないとダメだぞ？」

　三月は人一倍心春の食生活を気にかけてくれていた。手作りお弁当を学校に持っていくなんて、いつ振りだろう。嬉しくて、じんと目頭が熱くなる心春。

「……一生大切にします」
「いや、食えよ？」

　きゅっとお弁当箱を抱きしめる心春に、三月が冷静にツッコミを入れた。