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美しい死体が家の前にあった。
 しかし、死体というのは間違いだった。雨の中、ぴくりとも動かない体と、蒼白な肌、全身から流れる血を見て、死んでいると思ったが、首に手を当ててみると、脈があった。
 このままでは低体温と出血多量で死んでしまうので、僕は彼女を家に運ぶ事にした。

 この家に家族でも知り合いでもない誰かが泊まる事は珍しくない。母がお人好しで、困っている人を放っておけず、例えば道に迷った人などを泊めることがあるからだ。だから、一言二言事情を説明するだけで、簡単に彼女を家に入れることができた。
「おにーちゃんも大概、お人好しだよね」
 弟のライルが苦笑する。
 違うよ、ライル。僕はお人好しじゃない。単に母さんを真似ているだけだ。人として欠陥のあるらしい僕が、"普通"になるために、シトリアの血が混ざっていない母さんをまともな人間の基準として、参考にしているだけだよ。
 そう思ったが、
「どうかな」
 と、曖昧な言葉を返す事にした。

 翌朝、僕は彼女の様子を見に、薬と簡単な食事を持って部屋へ向かった。
 明かりをつけ、サイドテーブルに食事と薬の載ったトレーを置き、彼女の様子を窺う。すると、突然彼女が目を開いた。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
 何かに脅えたように頭を抱え、悲痛な叫び声を上げるので、流石に予期できていなかった僕は面喰ってしまう。
「だっ、大丈夫!?」
 光にくらんだように目を細めた彼女は、僕を視界に入れると、驚いたように表情を固まらせ、叫びを止めた。食い入るように見つめられ、どうしたのだろうと思っていると、
「セレン……」
 初対面のはずの彼女の口から、僕の名前が出てきた。
「僕を知っているのかい?」
「うん! あのね、セレンを助けに来たの。"魔女"がセレンを危ない目に合わせるから、"魔女"からセレンを守って、"魔女"を殺すんだ」
 嬉しそうに、しかし底知れぬ憎しみを湛えた瞳で、僕には全く心当たりのない事を彼女は話す。どういう事だろう、と考えて、気が触れた子なのかもしれないと思った。僕や父のような人種がいるのだから、こういう子だって世の中にはいるだろう。
 しかし、すごい回復力だ。昨日、死の一歩手前にいた人物とは思えない。この生命力の強さ、もしかして……。僕がある可能性に思い至った時、また彼女が、おずおずと突拍子もない事を言った。
「セ、セレン……あの、あのね、……ぎゅ、ってして良い?」

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作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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たまご(プロフ) - めっちゃ面白かったです!アスラ君、大好きでした! (2019年9月26日 7時) (レス) id: 4b6840f9b9 (このIDを非表示/違反報告)
寒極氷化(プロフ) - チェシャ猫さん» ありがとうございます(*^^*) アスラ君、好きになってもらえて良かったです! (2019年3月24日 2時) (レス) id: a49b6f3827 (このIDを非表示/違反報告)
チェシャ猫(プロフ) - 完結おめでとうございます!いやぁ、めでたしめでたしですね!!アスラ君最後まで大好きでした!お疲れ様でした!! (2019年3月23日 15時) (レス) id: 0582223455 (このIDを非表示/違反報告)
寒極氷化(プロフ) - なななさん» あなたの事は知ってますよー。コメントどうも! (2017年5月5日 21時) (レス) id: c03204db58 (このIDを非表示/違反報告)
ななな - すっごくおもしろいです!!!!! めつちゃ最高(*゚▽゚*)更新楽しみにしてまふ(( (2017年5月5日 14時) (レス) id: b05e83a60b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:寒極氷化(かんごく ひょうか) | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/orazu/  
作成日時:2016年4月26日 0時

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