俺が恋をしたのは片足がない人だった。【高尾和成】

やっつの障害 ページ9

「はぁ……宮地さん鬼だ…」

地獄の鬼のような形相を浮かべた宮地さんに追いかけられながら練習を終え、
もう動かないかと思うほどの体を引きずりながら帰ってきた。

いつもは心配もしてくれない妹だが、
『お兄ちゃん…大丈夫？』
なんて声をかけてくれてちょっと心がほっこりした兄である。

「あ、そうだ。」

今日持って行った鞄の中にはお兄さんからもらった本が入っていた。
何気なく、でも必然的に開いたであろう本。
１ページ目にも、２ページ目にも、文章が並んでいた。

『腕や足を一本なくすのは、鳥が翼を失うのと一緒である。鳥は翼を失うと、飛べはしない。人間にも、その障害がいつまでも付きまとうものである。』

そう書かれた文。たしかこの間読んだ本にもそんなことが書いてあったな、なんて思いながら読み進めていくと、最後のページに１枚の紙が挟まっていた。

俺とは比べ物にならないほどに綺麗な字。
一瞬未銅さんの字かと思ったけど、どうやらお兄さんの字のようだ。

『この本に書かれてある通り、障害を持つAと関わるのは大変だ。むやみに出かけたりすると大変なことになる。Aと関わるんだったらこの本ちゃんと読んどけ。』

関わる。
友人として、ということかな。
この本は比較的に薄いけど、大事なことがたくさん書かれていて、そこにはお兄さんが引いたであろうマーカーの線や字が書きこまれていた。

「大変なんだな…。」

そう思うと俺は、再び本に目を落とした。

ここのつの障害→←ななつの障害

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す