君が思い出すまで5【煉獄杏寿郎】

205.帰ってきた夫の姿 ページ5

「これを返しに参りました。」

　かえさんはそう言うと、

　濃い紫色の立派な風呂敷を差し出す。


「これは？」


「夫が亡くなった次の日に、

　煉獄様がこの風呂敷に

　夫の羽織を包んで持ってきてくださったのです。」



　小野寺さんが…亡くなった？


　
　ここ1年ほどお見かけしないと思っていたが、


　杏寿郎さん自身も炎柱邸にいることが多くなったし、


　小野寺さんは用がある時は炎柱邸に行っているから


　会えていないだけだと思っていた…。



「…煉獄様は、隠の方々と共に

　夫の亡骸と共にわざわざ家まで来てくれました。

　柱ってすごい方なのでしょう？

　生前、夫はよく言っていました。

　煉獄様は強くて、優しくて、すごい人なのだと。

　そんな上の方が来てくれるなんて…。」



「そう…でしたか。」


　そう言うと、かえさんは声を詰まらせながら

　また話し始めた。


「…それなのに、私は愛する夫を失った悲しさから

　煉獄様に酷いことを言ってしまいました。」



「…酷いこと？」



「…はい。



　夫は亡くなる前、遠方の山の方に鬼が出たとのことで

　
　任務に出かけていきました。


　真面目な人でしたから、鬼殺隊として精進し、


　階級も丙まで昇格していました。


　任務でケガを追うこともありましたが、


　いつも元気に帰ってきておりました。


　だから、私は安心しきっていたのかもしれません。


　今回も笑顔で手土産なんか持って帰ってくることを


　疑わなかったのです。


　でも、それから数日後、


　帰ってきたのは無惨な姿の夫でした。」


　私は膝の上で、着物を握りしめる。


「…煉獄様は、夫の最後の言葉を私に伝えてくれました。


　夫は"愛している"と言ったようです。


　でも、当時の私には彼を失った悲しみと絶望で


　死んでしまってはもうどうにもならない


　どうして夫が死ななければならなかったのか


　どうして助けてくれなかったのか


　夫を返して欲しい…と、

　
　煉獄様に強く当たってしまいました。」



「…かえさんのお気持ちを考えると、

　無理もないと思います。」


　私がそう言うと、かえさんは眉を下げて微笑んだ。


「…あなたも煉獄様と同じように

　あたたかくて、優しい方ですね…。」


「…いえ。」


「…でもね、正気を失った私は

　もっと酷い言葉を浴びせてしまった。」


　もっと酷い言葉…？


　

206.確かめずにはいられない→←204.訪問者

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す