君が思い出すまで4【煉獄杏寿郎】

188.大人の余裕 ページ38

「すみません…！

　柳田さんは落ち着いている方なので、

　私はてっきりご結婚されているのかと思って…

　大変失礼な反応をしてしまいました！」

　
　私は申し訳なくなって俯く。


「大丈夫だよ！傷ついていないから、顔を上げて。」


　私がそっと顔を上げると、優しく笑っていた。


「君みたいな素直で優しい奥さんを貰えたら

　私も幸せなんだけどね。」


　私は頬が紅潮するのを感じた。

　これが大人の余裕なのか…。


「…か、からかわないでください！」


「本当のことさ。今日1日の働きぶりや、会話からでさえ

　君がまっすぐで、優しくて、真面目なのがよく分かった。

　君にきてもらえて良かったよ。」


「こちらこそ、右も左も分からない私に

　何から何まで教えてくださってありがとうございます。」


「次は明後日かな？よろしく頼むね。」


「はい！…あ、そろそろ家です。」



　煉獄家が見えてきて、門の近くまで進むと、


　思いもよらぬ人がちょうど門から出てきた。



「…杏寿郎さん。」


「この人は君のご家族？」


「あっ、いえ。

　私がお世話になっているこのお家の方です。

　私は身寄りがないので…。」


「そうだったのだね。

　こんばんは。柳田刺繍工場の柳田吉次です。

　遅くなってしまったので、Aさんを送りに来ました。」


「こんばんは！

　俺は煉獄杏寿郎です。Aがお世話になります。」


「では、私はここで。またね、Aさん。」


「はい。ありがとうございました。」


　柳田さんが去った後、

　杏寿郎さんは彼の後ろ姿を見つめていた。


「…刺繍工場で働くことにしたんだな！」


「…はい。働くと言っても、時間も少ないですし、

　毎日というわけではないので…。

　杏寿郎さんには伝えていなかったですよね。

　すみません。」


「いや、問題ない！

　君の人生だ。君の自由にするといい！」


　そっか…。そうだよね。


　杏寿郎さんにはもう関係のないことだよね。


　分かっていたのに、急に寂しさの波が押し寄せる。


「…杏寿郎さんはこれから炎柱邸へ？」


「うむ。」


「…そうですか。

　お身体に気をつけてくださいね！」


「ありがとう！すっかり秋めいてきたな。

　Aも風邪を引かぬようにな。」


　杏寿郎さんは表情を変えない。


　感情が…読めない。


「では、夕餉の準備があるので…。」








　そう言って、門をくぐろうとしたとき、




　突然腕を引かれた。

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