君が思い出すまで4【煉獄杏寿郎】

186.忍ばせる ページ36

「…さん？



　Aさん！」



　私は千寿郎くんの声で我にかえる。


「…あ！ごめんなさい！」


「水が溢れていますよ！」


「えっ！？うわ！本当だ！」


　お米を研ぐために釜を洗おうと水を溜めていたところ


　ぼーっとしてしまったようだ。


「…Aさん。

　兄上と何かあったのですか？」


「ええ！？！？」


　千寿郎くんは鋭い子だ。



「…やっぱり。


　Aさん、僕にとってもAさんは大切な人なんです。


　あなたが元気ないと僕は心配です。」


　千寿郎くんは私をまっすぐ見つめて告ぐ。


　大好きなあの人と同じ顔で…。



「ふふっ。本当にそっくり。」



　千寿郎くんは眉を上げて驚く。



「…千寿郎くん、


　この間は浴衣一緒に買いに行ってくれてありがとう。


　杏寿郎さん、褒めてくれたよ。とても嬉しかった。




　でもね、私、振られてしまったんだ。」



　私がそう言うと、千寿郎くんは手にしていた手ぬぐいを


　床に落とした。



「…え？」



「杏寿郎さんは、私といると辛いようなの。


　幸せにしたいって思っているのに、


　そう思われてしまうなら、一緒にはいられないよね…。」
　

「そんな…」



　私は止まっていた手を動かし、米を研ぎ始める。




「でも、いいの。


　杏寿郎さんが幸せでいることが


　私の幸せだから、彼が笑えるのなら…」




「Aさん！きっと兄には考えがあるのですよ！！


　そうですよ、きっと！！だから…」


　私は千寿郎くんが言葉を紡ぐ前に遮る。


「もういいの。


　もう、いいんだよ。


　大丈夫、お付き合いする前に戻るだけだから…」


　

　私がそう言うと、千寿郎くんは私の手を握る。



「…僕は、何があっても二人の味方ですから。」



「ふふっ。ありがとう。」



　
　大丈夫。



　今は癒ぬ傷も、きっと時間が経てば痛くなくなる。



　

　ねえ、杏寿郎さん？



　
　あなたのために一緒にいることはやめる。



　でも、ひとつだけ許して欲しいことがある。












　
　心の中にあなたへの想いを忍ばせておいてもいいかな？




　

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