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185.夢だったかのよう ページ35

  先程まで華やかだった空は


 まるで夢だったかのように静まり返っていた。



 二人で一緒に煉獄家へと向かって歩く。


 下駄のカランコロンという音だけが響いていた。


 砂利道で転びやすくて、つい小股で歩くため、


 いつもより歩くのが遅くなってしまう。



 杏寿郎さんはそれも分かっていてか、

 
 歩く速さを私に合わせてくれる。



 でも、今はその優しさもただ胸を締め付けるだけで…




 下を向くと涙が溢れそうになる。



 別れをいつから決めていたのか、

 
 それならどうして私を花火大会に誘ったのか、




 ねえ、どうして?




 杏寿郎さんが何を考えているのか


 全然分からない。



「…やはり、私が煉獄家を出ます。」



 杏寿郎さんは足を止める。



「それはいけない。」



「どうして?」



「君がいないと…千寿郎が悲しむ。」



「…でも」



「頼む…それだけは千寿郎のためだと思っていて欲しい。」



 杏寿郎さんはまっすぐ私を見て言う。



「わ、分かりました…。」



「ありがとう。」


 眉を下げて困ったように微笑むから


 心が抉られそうなほど痛む。
 


 

 煉獄家に着くと、家は静まりかえっていて、


 千寿郎くんも槇寿郎さんも寝てしまったようだった。



「明日は朝方から任務地へと行くため、

 今日はこのまま炎柱邸に向かう。」



「…そうですか。お気をつけてください。」



「うむ。」



 長い沈黙が二人を包む。



「…あのう!」


「…なんだ!」



「…その、関係がなくなっても

 やはり杏寿郎さんとは普通にお話したいので…。」



「…そうか!」
 


「…今まで通り!そう、今まで通りお話してください…!」




 杏寿郎さんは驚いたように目を見開く。



「…君は酷いことをした俺に


 そんなことを言ってくれるのだな。」



「いえ、私のわがままでもありますから…」



 杏寿郎さんは泣きそうな顔で優しく笑う。



「…こちらこそ、お願いしたい。」



「はい。」



 私が玄関へ上がると、杏寿郎さんは踵を返す。


 少しだけ振り向いて"おやすみ"と一言だけ言うと


 そのまま家を出て行ってしまった。







 杏寿郎さんの足音が遠のいて、


 全く聞こえなくなった瞬間、



 
 ふと、もう私たちは"何の関係もない"という現実が



 頭の中を駆け巡った。






 私は玄関でしゃがみ込みこんで






 ただただ静かに涙を流した。

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設定タグ:鬼滅の刃 , 煉獄杏寿郎 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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狐姫(プロフ) - 衣世さん» 苦しいですね…。書いていても辛いです泣 叫んじゃってください〜!! (2021年11月3日 19時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
衣世(プロフ) - 更新ありがとうございます!杏寿郎ーー!!切ない、苦しいですね(ToT)うあぁぁぁ(TдT)叫ばずにはいられません泣 (2021年11月3日 18時) (レス) id: 1ea4fe96cf (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - akiomiさん» はじめまして。コメント嬉しいです!ありがとうございます。溶けてしまいたいですね…笑 応援ありがとうございます!引き続きお楽しみくださいませ! (2021年11月3日 12時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
akiomi(プロフ) - 初めまして。切なくてどうしようもない気持ちになり、コメントしてしまいました!雪になって、私も溶けてしまいたい笑 続きも楽しみにしております。これからも応援しています! (2021年11月3日 11時) (レス) @page45 id: 15912deccb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - ろろろーさん» はじめまして。コメントありがとうございます!胸を締め付けるようなお話ばかりで申し訳ないです。嬉しいお言葉、ありがとうございます!更新、頑張りますね! (2021年11月3日 10時) (レス) @page45 id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2021年10月23日 12時

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