君が思い出すまで3【煉獄杏寿郎】

143.理想と現実 ページ43

気がつくと、

　見知らぬ天井に慌てて飛び起きる。


「…あ、気がついた？」

　そばには弥栄子さんがちょこんと座っていた。

「すみません…私はいったい…」

「お花を渡した後、急にしゃがみ込んでしまって

　体調が悪そうだったから、家で少し休ませていたのよ。」



　そうだったのか。


「今、杏寿郎さんたちは居間でお話をしているわ。

　Aさん、大丈夫？無理なさらないでね。」


　そう言うと弥栄子さんは水を持ってきてくれた。


「ありがとうございます。

　ご迷惑をおかけしました。」


「いいのよ。気にしないでね！」


　部屋は洗練されていて、とても綺麗だった。

　あちらこちらに植物が置いてあって

　その緑が部屋の雰囲気を和ませている。


　その中の小さな植物に目が止まった。

　一つの葉に小さな芽がたくさんついており

　あまり見たことのないものだった。


「この植物は、何と言うのですか？」



「コダカラベンケイソウと言うの。

　面白い植物でしょう？」

　
　コダカラベンケイソウ…初めて聞く植物だ。


「素敵な植物ですね。名前も特徴的です。」


「そうなの。花言葉はね、"子孫繁栄"。

　らしい花言葉でしょう？」


　弥栄子さんは優しく微笑む。


「でもね、私たちに欲しい花言葉なの。」


　私はどういうことか分からず、首を傾げる。


　弥栄子さんは、悲しそうな笑顔になり


　困ったように呟いた。




「私たち夫婦はね、子どもがいないの。


　結婚してもう7年経ったわ。


　子どもも望んでいるのだけれど、


　なかなか授からなくてね。」


　コダカラベンケイソウを眺めながら

　弥栄子さんは話を続ける。


「植物にもすがる思いなの…。

　
　雄之介さんは子ども好きだし、

　私も欲しいのだけれどね…。

　うまくいかないこともあるのね。」


　私はなんて声をかけるのが正解か分からないでいた。


「…そうですか。」


「…あらやだ！ごめんなさいね。

　会ったばかりなのにこんな話！


　さあ、お水一口飲んで！！

　そろそろ杏寿郎さんたちに声をかけてくるわね！」


　世の中はうまくいくことばかりではない。



　憧れれば憧れるほど、理想を掲げるほど



　現実を受け止める時に受けるダメージは大きい。



「…よろしく頼むね。」


　私はコダカラベンケイソウに小さな声をかけて


　二人の幸せを願った。



　

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