・ ページ10
「キッチン借りるね。阿部は寝ててもいいよ」
「……んー、近くで見ててもいい？」
「もちろん良いけど、怠かったりしない？ 座ってる？」
「うん、椅子持ってくる」
「俺が行くよ。ダイニングのやつで大丈夫？」
「うん。ありがと、舘さん」
そんなに広くないキッチンに椅子を置いたらかなり狭くなってしまったけど、なんとなく、一人でいるのに飽きてしまったから。
「今日何か食べた？」
「…たべてない」
「食欲ない？」
「んー…なんか、面倒くさくて」
「そっか。スープ作ったら飲めそう？」
「舘さんのなら飲む」
トントン、コトコト。テンポの良い音に合わせて美味しそうな香りが鼻腔を擽る。コンソメかな。美味しそうだな。あたたかくて心地良くて、目がとろんとしてくる。
「阿部、眠い？」
「…眠くない」
「スープは後にして少し休む？」
「んん、大丈夫」
「分かった。もうすぐできるよ」
一足先にテーブルに戻る。すぐに舘さんが琥珀色の液体が揺れるカップを持ってきてくれた。
「野菜スープ。今日初めての食事なら、胃が驚かないようにゆっくり飲みな」
「ありがと。美味しそう」
「鍋にまだあるから飲めそうなときにどうぞ。温めた方が美味しいと思うけど、冷たくても飲めるから」
気遣いが手厚い。一口飲んで、優しい味にほっと息を吐いた。
「久しぶりのオフに災難だったね」
「うん…やりたいと思ってたこと、全然出来なかったな」
「そっか。じゃあ、働き者の阿部がちゃんと休めるように、って神様が頑張ってくれたんだよ」
「…ふは、神様、力技じゃない？」
「そんなもんだよ」
「そんなもんかぁ」
温かいカップを手で包み込んでのんびりと話をする。仕事のこと、メンバーのこと、俺のこと。そのうちだんだん眠くなってきて、舘さんにカップを回収された。
「阿部、今のうちに薬飲んじゃいな」
「ん…」
「一応風邪薬は買ってきてるけど、いつも飲んでるやつが良ければ持ってくるよ」
「サイドボードの真ん中の引き出し…」
「分かった。ちょっと開けるね」
足音が離れて、また戻ってくる。渡された錠剤を水で流し込めば「えらいえらい」と頭を撫でられた。
「舘さんがこういうことするの珍しいね」
「看病のことを手当てとも言いますし。調子の良くないときに人の手があると落ち着くから、甘え下手な阿部を甘やかしてやろうかと」
微笑む舘さんの手が優しくて、体調の悪さの助けもあって意識がすっと落ちていった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 227人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
素の8LOOMY - とてもおもしろかったです。自分の好きなおはなしでした。 (2023年4月11日 6時) (
レス) @page5 id: 14906cc816 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーちゃん - 最高なお話でした！続きがとても楽しみです！作者さんのペースでいいので、また続きが見れたらいいなと思います😊 (2023年3月30日 10時) (レス) @page8 id: 56981ce0bc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：結錵 | 作成日時：2023年3月1日 19時
