悪魔祓いと白い息 9 ページ10
『……みんな、いなくなっちゃったよ』
少年は黒く染った地面を見て、遠い異国の言葉で話し始めた。公用語よりもはっきりと、流暢に、落ち着いたように、しかし確かな怒りを持って。
『大っきらい、ぜったい許さない』
彼の視線がこちらに向き、未だぽろぽろと零れ落ちる涙は止まることを知らない。憎悪と怨念に満ちた顔は、子どもらしからぬそれだ。彼にも悪魔の影響があることは確かだが、それが彼をこうした訳ではない。今、私が彼の悪魔になった。
『許してなんて言わない。でも私は、君を助けたい』
彼は私が彼の言語を理解したことに意表を突かれたのか、一瞬戸惑い、しかしまた鋭い視線でこちらを
『ぼくはここにいたいから、じゃましないで！』
『……君には未来があるから』
『じゃああの子にはなかったの？』
間髪入れず答えた少年の顔が炙られた蝋人形のようにぐにゃりと曲がり、憎々しげに私を見ていた。私はそれに上手く答えられなかった。
『……君を悪魔にしたくない。君だけでも助けさせて欲しい。私の我儘だ』
少年は諦めたような、悟ったような、酷く哀愁を帯びたこわばった微笑を見せた。暗い影の落ちたその顔には、寒空で乾いた涙の跡がくっきりと残っている。
『……大人はわがままなんて言わないよ』
震えた声で、下を向いて言った。また、ぽとりと涙の粒が落ちた。
私の中の悪魔が、この子だけでも助けろと、エゴを囁いた。助かる命と助からない命があるのは当たり前。戦争の経験で理解している。ひとつでも零さないように、私に出来ることをするべき。
……この子がそれを望まないとしても？
『これが……私の役割だから。悪魔を……祓うことが』
『……分かってるよ。だから、ぼくを、助けて』
そう言い、私の手を包むように、縋るように、弱々しく握った。少年の瞳からまた涙が溢れ出して、黒い地面と私の冷たい手に落ちていく。白い息を吐きながら、少年は年相応に啜り泣く。彼の苦しみが、私の胸にちくりと刺さった。
この子は強い子どもだった。否、私よりもずっと大人だった。しかしそうだとしても、彼の心に燻る復讐心を消すことは出来ない。その復讐心が悪魔を生む事になりかねない。これが私の罪だ。そして罰だ。世界はこうやって今日も廻っている。
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葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。世界観は特にこだわっておりますので、そう言って頂き本当に嬉しいです。明日以降もたくさん楽しんでいって下さい。 (2023年3月28日 22時) (
レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - まずは、4章までの更新お疲れ様です。世界観の作り込みが本当に細かく、一話毎に感想を伝えられないのが残念です(笑)お体にお気をつけてください！更新楽しみにしてます。 (2023年3月28日 20時) (レス) @page42 id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。嬉しいお言葉、大変励みになります。実は雪の降る頃は非公開でしたので、まだ読めなかったんです……季節外れですが、楽しんで頂ければ幸いです。今後も頑張ります！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - とても読みやすい文章で、心情の表現や描写も素敵です！雪の降る頃に見つけられなかったのが悔やまれます(笑)陰ながら応援しています。更新頑張ってください！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葡萄 | 作成日時：2021年5月13日 17時
