悪魔祓いと白い息 7 ページ8
扉の音に気が付いたのか、部屋の中から子どもの声がたどたどしく発せられた。暗くてよく見えないが、子どもはだんだんと近づいて来ているらしい。気配が傍に来るのと共に甘いバニラの香りが鼻腔を掠め、それがやけに不快だった。
その子どもは酷い火傷を負った痕のような爛れた顔をしていた。性別も分からない。頬からは黒い粘着質の液体がぼたぼたと零れ、落窪んだ眼窩に嵌った眼球は生気を失い、涙のように垂れたそれは涙では無く瘴気の塊だった。
それは典型的な悪魔憑きの姿だ。この世に残った悔恨や嫉妬、深い悲しみといった感情に取り憑く悪魔。恐らく、この子どもは悪魔に侵されてしまい、最早自我はほとんど無い。言葉を発しているのが奇跡だと言えるほど。
「見るな！」
私のよく知っているこの光景を、少年達に見せる訳には行かない。その本能だけが私の口を動かす。
緩慢な動きで私に向かって手を伸ばす子どもの頭を狙って拳銃を撃つ。全部がスローモーションのように見えた。当たったのは肩か。
じゅわ、という肉の焼ける音と同時に、子どもの細枝のような腕が歪に湾曲する。本来曲がるはずのない方向に曲がる。意味を持たない言葉が、その口かどうかも分からない所から漏れた。
子どもは強い恨みの目を向け、重力に逆らうこと無く地面に倒れる。ふつふつと沸き上がる肉体の欠片が、空中に飛散しては消えていく。あまりに一瞬のこと。
走って近づく。まだ助けられるかもしれない、今度こそ間に合うかもしれない。
「……ぃ」
何か言っている。まだ、今なら……
「……くぉ……たす、て」
彼は優しく苦しい声でそう言ったあと、真っ黒な砂になっていく。脈などというものはなく、それは魂にDNAを書き換えられた、悪魔の死体だった。浄化されていく。酷い無力感が私を襲った。
悪魔憑きを祓うとき、そのほとんどが取り憑かれた媒体の人間も死亡する。命を取り留めたまま祓うことは、難しい。それを言い訳にするように、また私の眼前で一つの芽が萎びた。否、私が潰した。
誰かを救うために誰かを犠牲にしなければならない。不条理。こんな私が人に持て囃されるだなんて、とっくの昔から狂気にでも侵されているのかもしれない。これが、悪魔と人間の間の軋轢が生んだ業病。罪悪感が私の心臓を黒く染めていった。
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葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。世界観は特にこだわっておりますので、そう言って頂き本当に嬉しいです。明日以降もたくさん楽しんでいって下さい。 (2023年3月28日 22時) (
レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - まずは、4章までの更新お疲れ様です。世界観の作り込みが本当に細かく、一話毎に感想を伝えられないのが残念です(笑)お体にお気をつけてください！更新楽しみにしてます。 (2023年3月28日 20時) (レス) @page42 id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。嬉しいお言葉、大変励みになります。実は雪の降る頃は非公開でしたので、まだ読めなかったんです……季節外れですが、楽しんで頂ければ幸いです。今後も頑張ります！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - とても読みやすい文章で、心情の表現や描写も素敵です！雪の降る頃に見つけられなかったのが悔やまれます(笑)陰ながら応援しています。更新頑張ってください！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葡萄 | 作成日時：2021年5月13日 17時
