悪魔祓いと白い息 5 ページ6
翌日、眠たげに目を擦りながら起きてきたシャークんと共に、街の中心にあるアスピラシオンという地区にやって来た。様々な店や見世物小屋、学園などが集まった場所であり、セシュレスの中でも栄えた街だ。いつだったか、大きなサーカス団が来た時は非常に盛り上がった。
シャークんはまた一つ一つの物に目を輝かせていた。果物屋の洋梨。道具屋のペンデュラム。道行く学生たち。コロコロと表情を変える子どもは見ていて飽きない。
南北戦争が始まったのは今からちょうど十年前の話だ。恐らく彼はほとんどこういった娯楽に触れていないのだろう。いつかゆっくり見て回ろう、と私が言うと彼の目は綺麗な弧を描き、名前の為か鮫を思わせる尖った八重歯を覗かせて笑った。
噴水広場をゆっくりと歩いていると突然、シャークんほどでは無いが小さな影が真っ直ぐ走ってくる。前を開けて羽織っていた外套にすっぽりと入るようにぶつかった。
ごめーん！ と言って慌てた様子で走り去って行こうとする少年。その彼の手が、煤のような物で汚れていたのを私は見逃さなかった。それは私が見慣れたものだったから。
「その手、どうしたの？」
「え？」
こてんと彼は自らの手を見るが疑問の表情を浮かべる。突然何か思い出したかのように、あ、じゃあね！ とその小さな手を振って少年は人混みの中に紛れ込んで行こうとする。
「まて！」
シャークんが咄嗟に少年の服の裾を掴んだ。彼の深海のような青い目が一瞬ぴくりと揺れる。
「金、返して。とっただろ、今」
シャークんは至極真剣な眼差しで少年を見据えるが、少年はぽかんとした顔で首を傾げた。
「おれ、見たよ。おまえが金とったとこ」
「……ぼくそんなことしてないよー！」
ぷく、と頬を膨らませシャークんを否定する少年の、その頬に黒く丸い瘴気が見えた。確かにそこにある、濡羽色に光るインクのような小さな点。やはり先程の煤も瘴気だったか。
「君、悪魔を見たり、触ったりした覚えはある？」
私が屈んで二人の話を遮るように少年に聞くと少年はぶんぶんと大きく首を振って知らないよ、と言った。シャークんは私に話の邪魔をされたのが気に食わなかったのか、軽く膨れ、何か言っている。
彼の近くに悪魔がいるとしたら、このままだとこの子も被害を被る可能性がある。
「君の近くに悪魔がいるかもしれない。何か少しでも心当たりはない？」
「……」
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葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。世界観は特にこだわっておりますので、そう言って頂き本当に嬉しいです。明日以降もたくさん楽しんでいって下さい。 (2023年3月28日 22時) (
レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - まずは、4章までの更新お疲れ様です。世界観の作り込みが本当に細かく、一話毎に感想を伝えられないのが残念です(笑)お体にお気をつけてください！更新楽しみにしてます。 (2023年3月28日 20時) (レス) @page42 id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。嬉しいお言葉、大変励みになります。実は雪の降る頃は非公開でしたので、まだ読めなかったんです……季節外れですが、楽しんで頂ければ幸いです。今後も頑張ります！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - とても読みやすい文章で、心情の表現や描写も素敵です！雪の降る頃に見つけられなかったのが悔やまれます(笑)陰ながら応援しています。更新頑張ってください！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葡萄 | 作成日時：2021年5月13日 17時
