Ep.6 ■びょうりとげんそう ? ページ50
祝祭で賑わう街の真ん中。小さな影が上着を引きずりながら動いていた。冬の陽光を金色の髪が反射し、きらきらと輝く。雪の道を歩き続ける脚は細くて頼りない。霜焼けになった指をぎゅっと握り、煩雑にポケットに突っ込んだ。
「なんで」
力なく喉から絞り出された声は、誰に向けられたものでもなく、ただ雑踏の中を溶けていく。見開かれた飴色の瞳に、じわりと涙が溜まった。
道沿いのショーケースの中に溢れたプレゼントの箱。整った毛並みのぬいぐるみ。踊り子を模したオルゴール。ガラス細工の天使。そのどれもが、自身を叱責するかのような錯覚をおぼえる。ぐしゃりと歪んだ顔を隠すように俯いた。
「おれだけ……」
溶けた雪が靴の繊維の隙間から侵食して、ぐちょりと嫌な音を鳴らした。やけに明るい音楽が惨めさを克明にする。木から滑り落ちた雪が蜂蜜色の髪にかかった。
「助けて、だれか」
「マスター、あのね、さっきね……」
「あれ見て！ マスター！」
すれ違う子ども達の明るい声が、当てつけのように思えた。乾いた空気が喉を通る。何もかもから疎まれているような感覚が、身体を溶かしていく。
方舟に乗って、こんな場所から逃げ出してしまいたい。大切な人と、大切なものだけを乗せた船。自分に流れる血液が疎ましさで重くなる。ぱちりと輝いた金糸のような長い睫毛の影が大きな瞳に落ちた。
「はぁ……」
吐き出した白い息が、自身を裏切った召使いの顔が、踏みつけたガラスが、自らを照らす夕焼けが、何もかもが道行きを阻む。
そのとき。懐かしい声が、聞こえた気がした。
「マスター、ぼく、あの……」
声の主の、アクアマリンに似た色素の薄い瞳と長い前髪は、ずっと前に見ていたそれと変わりない。口をついて出た彼の名前。
「なかむ……」
「あっち、見てみたい……！」
「うん、いいよ。行こうか」
弧を描いた睫毛と少し染まった頬が、残酷に離れていく。知っている人の知らない顔。置いていかれた自分の惨めさに耐えられなかった。同じだと、勝手に期待していた。
一人、呼吸の出来ない日。祝祭日はすぐそこにまで迫っている。どうか、見つけてあげて。救いを待つ、最後の怪物のお話。
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続編を公開致しました！
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葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。世界観は特にこだわっておりますので、そう言って頂き本当に嬉しいです。明日以降もたくさん楽しんでいって下さい。 (2023年3月28日 22時) (
レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - まずは、4章までの更新お疲れ様です。世界観の作り込みが本当に細かく、一話毎に感想を伝えられないのが残念です(笑)お体にお気をつけてください！更新楽しみにしてます。 (2023年3月28日 20時) (レス) @page42 id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。嬉しいお言葉、大変励みになります。実は雪の降る頃は非公開でしたので、まだ読めなかったんです……季節外れですが、楽しんで頂ければ幸いです。今後も頑張ります！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - とても読みやすい文章で、心情の表現や描写も素敵です！雪の降る頃に見つけられなかったのが悔やまれます(笑)陰ながら応援しています。更新頑張ってください！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葡萄 | 作成日時：2021年5月13日 17時
