悪魔祓いと黒い夕焼け 7 ページ38
街は至る所に戦跡を残している。それを隠すように彩る花々と、覆い被さる雪は、この国の象徴のように思えた。平和が訪れても、傷は消えない。横を歩く青色が、私の思いに気づいたらしく、明るい声色で話しかけた。
「マスター、今日さむいね」
「本当だね。足が凍ってしまいそう」
「おれは手がつめたい！ ほら、」
そう言うと、彼の言葉通りの冷たい手が右手に触れる。少し赤らんだ細い指に、花弁のように綺麗な爪が並んでいた。
「わぁ、本当だね。少し温めてあげよう」
荷物を左手にまとめて、右手で彼の手を覆う。私の手も、大して温かくない。
「おれも、手、つめたい」
今度は紫色に、きゅ、と服の裾を引かれる。マフラーから覗く耳の先は真っ赤で、寒さのせいか疲れのせいか、いつにも増して小さな声で言った。
「大変だなぁ、手が足りない。こうしようか」
まとめたばかりの荷物をまた分けて、両の手首に掛けた。これで手は空いた、と言えば、何も言わずに弱い力で握られる。じわりと熱が伝わった気がした。
「あ、あそこ……」
マーケットの端。そこには寄付された本が積み上げられた「木」が、いくつも伸びていた。スマイルはちらりと私を見て、本の木を見てを何度か繰り返す。
「折角だから、少し通っていこうか」
「うん」
古い紙の香りが寒空の澄んだ空気に混ざって溶け合う。居心地のよい場所だった。雪に濡れないよう建物の軒下にずらりと並んだ本は、分類ごとに分けられており、煩雑ながらも整理されていた。本の木の間は狭く、手を繋いだままでは通れなさそうだ。離そうと緩めると、代わりに両手とも少し強く握られた。……離す気は無いようで。
「そういえば、屋敷にも書庫があるから、興味があったら見てみてね」
「え、そうなの？」
「前の家主が残した本がたくさんあるよ」
「へぇ……」
声色が明るくなった。彼はなんだかんだわかりやすい。書庫もあまり入っていなかったから、掃除は必須だろうが、彼が喜んでくれるなら、やらない理由は無い。
やることはたくさん。きっとその分、彼らがもっと笑ってくれる。そんな期待で胸が膨らんでいった。
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葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。世界観は特にこだわっておりますので、そう言って頂き本当に嬉しいです。明日以降もたくさん楽しんでいって下さい。 (2023年3月28日 22時) (
レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - まずは、4章までの更新お疲れ様です。世界観の作り込みが本当に細かく、一話毎に感想を伝えられないのが残念です(笑)お体にお気をつけてください！更新楽しみにしてます。 (2023年3月28日 20時) (レス) @page42 id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。嬉しいお言葉、大変励みになります。実は雪の降る頃は非公開でしたので、まだ読めなかったんです……季節外れですが、楽しんで頂ければ幸いです。今後も頑張ります！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - とても読みやすい文章で、心情の表現や描写も素敵です！雪の降る頃に見つけられなかったのが悔やまれます(笑)陰ながら応援しています。更新頑張ってください！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葡萄 | 作成日時：2021年5月13日 17時
