悪魔祓いと黒い夕焼け 4 ページ35
「……心配させちゃった？」
「なんか〜かなしそうにみえたから。ちがった？」
彼は、私が思っていたよりも鋭い人間だったようだ。否、初めて会ったときから、彼はずっとそうだった。不安定で芯の見えない少年。底抜けに明るいのかと思ったら、不意に大人びた顔をする。窓の外の雪煙に、よく似ていた。
「大丈夫だよ、ごめんね」
彼の夜空のような瞳を見ていると、罪悪感の波が押し寄せてくる。悲痛な叫びが反芻して、怨恨の言葉が胸を刺す。彼の本心は、彼にしか分からない。だがこれは、私に下った罰だ。沈黙は罪だから。
「マスター」
そんな私を見て、彼は桃色の頬で、いつもの笑顔のまま私に近づいてくる。そしてそっと耳うちをした。
「ぼく、マスターのことだいすきだよ」
細められたインディゴブルーは、優しさと寂しさを綯い交ぜにしたようで、とても子どものそれとは思えなかった。ときどき、彼には驚かされる。またその度に、彼の暖かくて弱いところを知る。
「ぼくの手ね、あったかいんだよ。ほら」
手袋のない右手に触れられた。小さな手から温度が伝わってくる。
「本当だね。ありがとう」
「……ごめんなさい」
「え？」
「ぼく、はじめて会った日に、ひどいこと言っちゃったでしょ？ それで、マスターはぼくのこと、きらいなのかなっておもってたから」
「そんなわけないよ。むしろ、そんなことを考えていたなんて。私こそ、ごめんね」
私がそう言えば、彼は少し安心したように微笑む。彼の首から下がったペンダントの石が光を反射して、形成されたプリズムが地に広がった。小さな虹色の粒は、どんな魔法よりも美しく見えた。
「ほんとう？ よかったぁ……」
彼に、許されるとは思っていない。許されたとも。だが、そんな罪悪感に囚われ続けて、彼のことを見えていなかった。彼も一人の子どもだ。愛していることを、大切な存在であることを、もっときちんと伝えてあげよう。
「うん。私もBroooockのことが大好きだよ」
彼のふわふわな髪を撫でる。擽ったそうにしながらも、えへへと小さく笑った。それは、ずっと絡まっていた糸がようやく解けたような、そんな脆弱な救いだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 102人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。世界観は特にこだわっておりますので、そう言って頂き本当に嬉しいです。明日以降もたくさん楽しんでいって下さい。 (2023年3月28日 22時) (
レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - まずは、4章までの更新お疲れ様です。世界観の作り込みが本当に細かく、一話毎に感想を伝えられないのが残念です(笑)お体にお気をつけてください！更新楽しみにしてます。 (2023年3月28日 20時) (レス) @page42 id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。嬉しいお言葉、大変励みになります。実は雪の降る頃は非公開でしたので、まだ読めなかったんです……季節外れですが、楽しんで頂ければ幸いです。今後も頑張ります！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - とても読みやすい文章で、心情の表現や描写も素敵です！雪の降る頃に見つけられなかったのが悔やまれます(笑)陰ながら応援しています。更新頑張ってください！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葡萄 | 作成日時：2021年5月13日 17時
