悪魔祓いと黒い夕焼け 1 ページ32
「それじゃあ始めに、君の名前を教えてくれる？」
萎縮させたい訳では無いが、警戒は解けない。私は彼のブローチを手にしたまま、壊れかけのベンチの上、彼の横に腰掛けた。少年は小さく口を開く。
「……スマイル」
「よろしくね、スマイル。私は悪魔祓いのA」
自己紹介に続けて私が四人の名前を順に言っていくが、スマイルは反応が薄く、目を合わせてくれない。彼はその小さな手をぎゅっと膝の上で握っていた。
「単刀直入に聞くけれど、君はどうやって悪魔を従えていたの？ このブローチは関係ある？」
ブローチについた大きな丸い石からは、僅かに魔力を感じられる。これが彼にとって重要なものであることは確かだ。これを手放したと同時に、悪魔が彼を襲ったように見えたのだから。
「……むかし、教えてもらった」
「そう。誰に教わったの？」
「……」
言い淀んで俯いてしまう。これは、聞き出すのは厳しいだろうか。悪魔の懐柔は、北部では戦前から大罪であった。その罰は教会の司法機関〈智天使〉によって決められ、良くて一生檻の中、最悪の場合は死罪に至る。戦争が終わった今、それは国家全体の総意となった。
「質問を変えよう。どうして、こんなところに一人でいるの？」
「すてられたんだよ、もういいだろ。返してよ」
彼が私の手元のブローチへと手を伸ばすが、私はそれを強く握りこんだ。
「駄目だよ」
「……」
ふい、と彼はまた顔を背けてしまった。彼は、確実に処罰の対象だ。このまま放置するわけにはいかない。子どもだからといって、捨てられたからといって、教会は容赦してくれないだろう。だが、私がどうするかはまだ決められない。ささやかな抵抗。
「君のことをちゃんと教えて。そうしたらこれは返すから」
「ほんとのこと言ったら、おれのことつかまえるんだろ」
「それは分からないよ。でも、何もしないということは出来ないんだ」
ようやく、彼と目が合った。ワインのような深い紫色。見透かすような瞳に、一瞬迷いが映った。色のついた光が彼の頬を照らす。
「……おれは、だれ？」
呟くように発したのは、そんな言葉だった。言葉と共に、一筋の涙が頬を伝って零れ落ちる。彼の表情は少しも変わらない。しかし、言葉に出来ない感情が、涙となって溢れたのが分かった。私はそうして禁忌の始まりを知ったのだった。
悪魔祓いと黒い夕焼け 2→←悪魔祓いとガラスの陽だまり 10
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葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。世界観は特にこだわっておりますので、そう言って頂き本当に嬉しいです。明日以降もたくさん楽しんでいって下さい。 (2023年3月28日 22時) (
レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - まずは、4章までの更新お疲れ様です。世界観の作り込みが本当に細かく、一話毎に感想を伝えられないのが残念です(笑)お体にお気をつけてください！更新楽しみにしてます。 (2023年3月28日 20時) (レス) @page42 id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。嬉しいお言葉、大変励みになります。実は雪の降る頃は非公開でしたので、まだ読めなかったんです……季節外れですが、楽しんで頂ければ幸いです。今後も頑張ります！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - とても読みやすい文章で、心情の表現や描写も素敵です！雪の降る頃に見つけられなかったのが悔やまれます(笑)陰ながら応援しています。更新頑張ってください！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葡萄 | 作成日時：2021年5月13日 17時
