悪魔祓いと白い息 3 ページ4
先の南北戦争で家族を失った者は少なくない。ここ、セシュレスがある北部の勝利で戦争は幕を閉じたが、この子のような戦争孤児は未だ一定数存在する。ぐずぐずと鼻を鳴らし始めた少年の手を引いて自宅に戻った。教会まで足を運ぶには遅いだろうし、少年の様子を見るに遠出させるのは厳しそうだ。
少年は名をシャークんと名乗った。四月には九歳になるらしい。ちょうど遊び盛りなのに両親を失った悲しみの大きさは容易に想像できる。
南北戦争による被害者は国家からのちっぽけな手当を受け取れることになっているが、この歳ではそんなことも知らないだろう。
「改めて、私はA。苗字は無い。教会所属の悪魔祓い……なんだけど今は戦後の混乱鎮圧に忙しくてね。君みたいなしぶとい子どもがあちこちにいて困ってるんだから」
私はわざとらしく肩を竦めてそう言うが、こてん、と首を傾げる様子を見ると、私が何を言っているのかあまり理解出来なかったようだ。皮肉を効かせてやったのだが。
……彼は、これからどんな選択をするだろう。もちろん、それは他者が決めるものではなく、彼自身の意思で決められるべきだ。それは分かっている。彼の行く先が、光に満ちていますように。
「もうすぐ家に着くよ」
「うん……」
職業柄、悪魔がいるのは知っている。目に見える。それをこの手で消す。だが、私は神がいるのかどうかは知らない。見えないから、干渉のしようも無い存在がいるのかどうか分からない。
それでも、この小さな少年に手を差し伸べてくれる神様がいますようにと願ってしまうのは、聖職者の端くれとしての血が私にも流れているからだろうか。
戦争が終わってもうすぐ一年。未だ戦前の姿は戻りきらないが、人々は変わっていく。私も同じように。この子のような戦時中に産まれた子どもに、世界に溢れている楽しいことや幸せなことを知って欲しい。国家は統一され、やっと安寧を得られるようになってきたのだ。
「おれ、はらへった」
我慢出来なかったのか、恐る恐るそう言いこちらをちらりと見るシャークんに、私はつい笑みを零してしまう。始まりの日は、少し寒い冬の日だった。
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葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。世界観は特にこだわっておりますので、そう言って頂き本当に嬉しいです。明日以降もたくさん楽しんでいって下さい。 (2023年3月28日 22時) (
レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - まずは、4章までの更新お疲れ様です。世界観の作り込みが本当に細かく、一話毎に感想を伝えられないのが残念です(笑)お体にお気をつけてください！更新楽しみにしてます。 (2023年3月28日 20時) (レス) @page42 id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。嬉しいお言葉、大変励みになります。実は雪の降る頃は非公開でしたので、まだ読めなかったんです……季節外れですが、楽しんで頂ければ幸いです。今後も頑張ります！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - とても読みやすい文章で、心情の表現や描写も素敵です！雪の降る頃に見つけられなかったのが悔やまれます(笑)陰ながら応援しています。更新頑張ってください！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葡萄 | 作成日時：2021年5月13日 17時
