悪魔祓いとガラスの陽だまり 9 ページ30
悪魔を追って一人入ったその建物の中は、一つを除いて、全てが過去のものだった。吹き飛んだ屋根。壊れた長椅子。左右の砕けたステンドグラス。正面の窓に嵌った七色のガラスを通った陽だまり。陽だまりの中央には唯一残った長椅子があり、それを取り囲むように悪魔や悪魔憑き達が円を作っている。それらはまるで狂信者のように、崇めるような姿勢で奇怪な言葉を発する。
そして、椅子の上では一人の子どもが、ぺらりと本のページを捲っていた。
子どもは私の気配に気付いたのか、ふいとこちらを振り向く。一見すると少女に見紛うような長い睫毛と整った顔付き。跳ねた茶髪は様々な色の光に照らされている。アメジストがそのまま嵌っているかのような紫色の瞳で、こちらを一瞥する。そして酷く落ち着いた声色で一言放った。
「なに？」
「何って……君は今、悪魔に囲まれている。すぐに祓うから、そこを動かないで」
「……こいつら、おれのことはおそわないけど」
そう言ってまた本に向き直ってしまう。それと同時に、悪魔達は彼には見向きもせずに私の方へと近付き始めた。彼の言ったことは事実だった。
私は外で書いておいた血文字のページを開き、詠唱する。
『我が血と希望を、大いなる太陽に捧ぐ』
聖水を垂らすと、魔導書は周囲の光を集め、辺りは暗くなる。凝縮された輝きが悪魔のすぐ傍で弾けた。目が痛くなるほど眩しい白い光。小さな太陽。それに焼かれた悪魔達は言葉にならない声を上げながら塵になってゆく。
掃討とまではいかないが、粗方は片付いた。先程攻撃を受けた右肩が熱を持っている。悪化したらまずい。これが子ども達に当たらなくて良かった。
少し暗くなった教会は、先程よりもステンドグラスの色が良く見える。少年は、手元の本から私へと視線を動かしていた。彼は少し物憂げな顔で呟く。
『……行け』
その言葉に応じるように、前方から動物に憑いた悪魔憑きが現れる。低い唸り声を上げたそれらは、まっすぐ私に向かってきた。
私は拳銃を素早く構え、二発撃ち込む。狩猟のようだった。弾丸の当たったところから肉の腐敗臭が漂ってくる。オオカミに似たそれらは、私の目の前で灰になって消えていった。
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葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。世界観は特にこだわっておりますので、そう言って頂き本当に嬉しいです。明日以降もたくさん楽しんでいって下さい。 (2023年3月28日 22時) (
レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - まずは、4章までの更新お疲れ様です。世界観の作り込みが本当に細かく、一話毎に感想を伝えられないのが残念です(笑)お体にお気をつけてください！更新楽しみにしてます。 (2023年3月28日 20時) (レス) @page42 id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。嬉しいお言葉、大変励みになります。実は雪の降る頃は非公開でしたので、まだ読めなかったんです……季節外れですが、楽しんで頂ければ幸いです。今後も頑張ります！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - とても読みやすい文章で、心情の表現や描写も素敵です！雪の降る頃に見つけられなかったのが悔やまれます(笑)陰ながら応援しています。更新頑張ってください！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葡萄 | 作成日時：2021年5月13日 17時
