悪魔祓いと召使い 10 ページ21
「大丈夫だから、おちつけって！」
「え……ぁ、あ……」
事態は異常だ。Nakamuは赤い瞳からぼろぼろと涙を零しながら意味の無い言葉を呟く。きんときは彼を落ち着けようと声を掛けるがあまり聞こえていない。
「何が、起きてるの……？ 初めてのことじゃないだろう？」
「おれにもわかんないんです！ おしえてくれなくて……」
Nakamuの呼吸が浅くなっている。耳が変容し、覗いている歯が尖る。長い前髪をかき分けるように小さな角が生えた。涙は止まることを知らず、赤く光る焦点の定まらない目が恐怖を訴えている。
間違いなく、これは、悪魔化だ。
「は、はぁ……いや！ 来ないで！ やめて！」
Nakamuは自らの口元を抑え、呼吸を整えるのに必死だ。誰に対して話しているのか分からない。その間もきんときは彼に声を掛け続けながら背中をさすっている。私は、彼に何をするべきなのか。悪魔祓いとして、大人として、私として、どうするのが正解なのか。
……わからない。
「や、はぁ……はぁ……」
だんだんと彼の呼吸が落ち着いていく。それに伴って異形化した部分は人のそれに変わっていき、柘榴のような瞳は元のブルートパーズを彷彿とさせる水色に戻っていく。
「Nakamu」
私は屈んで恐る恐る彼と目を合わせる。濡れた丸い頬がちらちらと光を乱反射させ、その顔は怯えと後悔に満ちていた。
「ごめんなさ、ごめんなさい」
小さくしゃくりあげ、震えながら何度も繰り返し謝る。私は何も言えない。隠し得ない恐ろしさを感じてしまった。私が今相対している者は、いつ悪魔になるか分からない未知の存在なのだ。その事実は恐怖を煽るのには充分すぎた。だが、彼を知りたい、守りたい。その気持ちの方がずっと強かった。どう伝えたら、この小さく弱い怪物に分かって貰えるのだろう。
「大丈夫。少し驚いたね。何か温かい飲み物を持ってくるから、少し待っていて」
何故、あんなことが起きる？ あまりにも特殊なことで、理解が出来なかった。悪魔化はそれほど簡単には起こらない。言いぶりから察するに、人間の姿と悪魔の姿の行き来を繰り返している可能性が高い。大切な友人が涙を流した……それがトリガーになり得るほど、彼は弱いのか。
ポットから昇る湯気が夜の澄んだ空気と混ざる。長い影が寂しげに伸びているのが見えた。すこしぼやけた視界の中で、輪郭が曖昧になっていく。ランプの光に集う蛾が、灯る希望を欲していた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 102人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。世界観は特にこだわっておりますので、そう言って頂き本当に嬉しいです。明日以降もたくさん楽しんでいって下さい。 (2023年3月28日 22時) (
レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - まずは、4章までの更新お疲れ様です。世界観の作り込みが本当に細かく、一話毎に感想を伝えられないのが残念です(笑)お体にお気をつけてください！更新楽しみにしてます。 (2023年3月28日 20時) (レス) @page42 id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。嬉しいお言葉、大変励みになります。実は雪の降る頃は非公開でしたので、まだ読めなかったんです……季節外れですが、楽しんで頂ければ幸いです。今後も頑張ります！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - とても読みやすい文章で、心情の表現や描写も素敵です！雪の降る頃に見つけられなかったのが悔やまれます(笑)陰ながら応援しています。更新頑張ってください！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葡萄 | 作成日時：2021年5月13日 17時
