悪魔祓いと白い息 2 ページ3
セシュレスの郊外の貧民街の内の一つ、エリュプシオン。薄霧のかかった街並みは逢魔が時のライラックカラーの雲も相まって、どこか不気味に見える。
薄汚れたクリーム色のコンクリートの壁からこちらを覗く、緑色の双眸。私が迷いなく真っ直ぐ進むと、彼はぱっと身を翻して狭い通路を通って逃げていった。
……野良猫か何かのようだ。
「待ちなさい、私は教会から来た人間だ。ほら、こっちにおいで」
何がいけないのか、この職に就いた三年前から子どもだけは苦手だった。何を言っても逃げられるか怯えられるかの二択で、全く扱いに慣れないのである。放浪者には喜んで飛びつかれるのに、どうしてこうも子どもというのは思い通りにならないのだろうか。
走って回り込んだ先、息を切れ切れに少年を捕まえる。じたばたと腕の中で暴れるが、それを宥めるように頭を撫でた。髪が冷たい。少し凍ったそれが手袋越しにぱきぱきと音を立てた。
「君、お父さんやお母さんは？」
「っ……いなくなった！ 全部せんそうがわりぃんだ！」
ヒステリックに叫んでまた逃げ出そうとする少年の腕を掴む。
私は自分の首から下がった、七色の光を反射させる小瓶を彼の目の前に突き出した。小瓶の中では少量の聖水がゆらゆらと揺れ、雪虫の儚い白色を映し出している。
悪魔祓いにのみ所有を許される特異的なその小瓶の中身にゆっくりと吸い込まれるように、少年はその瞳孔を縮ませる。
「この辺りはよく悪魔が出るし、今夜は冷える。凍死してしまうよ？」
「……あくま、ばらい……？」
少年は先程までの勢いを無くし、おずおずと尋ねる。教会は国内最大の権力を持つ機関。その名を出せば、取り敢えず話をしてもらえる。
……こんな風に利用している私も、所詮同じか。
「そうだよ。だから行こう？ 教会が嫌なら私の家の空き部屋がある」
ね？ と笑いかけると、彼は少し間を置き悩んだ後、こくんと細い首を縦に振った。貧民街の住民には反教会の人々もいる為、関係者と言うだけで毛嫌いされることもある。この子はそういう筋の人間では無かったようで、ひとまず安心できた。
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葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。世界観は特にこだわっておりますので、そう言って頂き本当に嬉しいです。明日以降もたくさん楽しんでいって下さい。 (2023年3月28日 22時) (
レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - まずは、4章までの更新お疲れ様です。世界観の作り込みが本当に細かく、一話毎に感想を伝えられないのが残念です(笑)お体にお気をつけてください！更新楽しみにしてます。 (2023年3月28日 20時) (レス) @page42 id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
葡萄(プロフ) - 名無しさん» 名無し様、コメントありがとうございます。嬉しいお言葉、大変励みになります。実は雪の降る頃は非公開でしたので、まだ読めなかったんです……季節外れですが、楽しんで頂ければ幸いです。今後も頑張ります！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 174f99a722 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - とても読みやすい文章で、心情の表現や描写も素敵です！雪の降る頃に見つけられなかったのが悔やまれます(笑)陰ながら応援しています。更新頑張ってください！ (2023年3月18日 19時) (レス) id: 8b083f4a7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葡萄 | 作成日時：2021年5月13日 17時
