6保証のない考え ページ25
「上司が部下を心配するのは当たり前のことだろうが。」
渋々俺は呟いた。
かなり不機嫌な声になったのはどうしようもない。
「……。」
「おい。満足か、クソガキ。」
返事をしないそいつを睨みつける。
何かを考えるように目を伏せていたそいつは、ふと顔を上げて口を開いた。
「正直、ここまできてまだ濁す事に失望しました。」
真顔でそう言い放つ。
最早呆れ以外の何の感情もない。
「わがまま放題だなてめえは。いつからそんなでかい顔するようになった。」
「すみません。でも、少しは嬉しかったと思います。」
「濁してんのはどっちだよ。」
「素直な感想です。」
その瞬間、俺は固まった。
動揺して、というのは少し違う気がする。
俺はその時、初めてこいつの笑顔を見た。
「……お前。」
「なにか？」
「……いや、なんでもない。」
「？」
“笑えたのか”
そう言おうとしてやめた。
その言葉はそのまま自分に返ってくる可能性を秘めていた。
人間関係とは、どのように変化していくかわからない。
こいつが俺の前で笑う事を、ついさっきまでは想像すらしていなかった。
『結局俺は、絶対的な依存できる存在が欲しかったんだと思います。』
あの時、やっと絞り出すように言ったこいつの台詞。
こんな世界では仕方ない、俺らが動く理由など、大体がエゴだ。
兵士だろうと、庶民だろうと、王族だろうと。
そして、俺はこの時、確実に感じていた。
頭の奥の奥で、確信していた。
俺はこいつの言う、“絶対的に依存できる存在”に成り得る。
この考えに自覚はない。しかし、どこかでわかっていた。わざと頭の片隅に追いやり、考えないようにしていたのかもしれない。
俺は、こいつの願う安寧を、実現することのできる可能性が、今この世界で最も高い人物だ。
あえて考えないようにしていたその答えを、俺が口に出す筈なかった。
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作者名：わか | 作成日時：2019年9月16日 16時
