5変わり身 ページ24
「会話をしろ。」
「は？」
俺の言葉に、ティルは再び、間抜けな声で聞き返す。俺は構わず続けた。
「誰でもいい。話ができるような奴を作れ。」
ただ、こちらを見つめるティル。
俺の言葉の意図を理解できない様子のまま、言い返してきた。
「そんな人、いません。」
「だから作れと言っている。」
「作る必要性を感じません。」
「てめえが必要性を感じるか感じないかは問題じゃねえ。意図して周りから孤立するな。」
そこまで言うと、そいつは訳がわからないと言った表情でこちらを見てきた。
本当に、なぜ俺がこんな事を言うのかが、理解できていないようだった。
「孤立することの、何がいけないんですか。なぜ貴方にそこまで言われなくてはならないのですか。」
その声が、少し掠れて聞こえたのは恐らく聞き間違いではなかった。
自分自身、今の奴の質問に対して、的確な答えを出せる確信はなかった。
しかし俺は、奴がいい終わったところですかさず口を開いた。
間を置くことだけは、してはいけない気がした。
「俺が気になったからだ。」
何の躊躇いもなしに、俺はその台詞を口にした。
返事はなかった。
「……。」
「……。」
「……は？」
「あ？」
暫くの沈黙の後に、聞こえてきたティルの声。
俺はそれに対して、自然と強く聞き返してしまった。
しかし、俺の強い口調を気にするでもなく、そいつはただ、口を開けて固まっていた。
そして、その後そいつからされた質問に、俺は衝撃を受けた。
「それは、俺を心配してくださっているのですか？」
「……。」
思わず目を見開いた。そして、すぐに眉間にしわを寄せる。
まさかそんな質問をされるとは思わなかった。
わざわざそこを聞いてくるとは思わなかった。
そして、改めてそう聞かれれば、何か答えにくいものがある。
「……てめえは、そんなこともいちいち確認しねえとわかんねえのか。」
言葉を濁して答える。
いつのまにか、俺の方が立場が悪くなっていた。
そして、先程とは打って変わってすかさずそいつは返事をした。
「わかりません。いけませんか。」
「自分で判断することが重要な局面は、この先いくつもある。」
「今がそうとは思えません。」
「言い切れねえだろ、そんなこと。」
「すみません、言い方を変えます。貴方の口からそうなのか違うのかを俺は聞きたい。」
思わず唖然とする。
さっきまでの白々しい態度は何処へ行ったのだ。
数分前まで散々俺を避け、子供のように反抗的な態度を取っていた奴と、今の言葉を言った奴が同一人物とは思えなかった。
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作者名：わか | 作成日時：2019年9月16日 16時
