4遠い距離 ページ12
「説教は帰ってからにしてやる。早く馬に乗れ！陣形に戻るぞ！」
「はい！」
返事をし、馬に跨った時、目を疑った。
視界の中で、紫の煙弾があげられるのが見えた。それは緊急事態を告げる合図だった。
おそらく、この時点で既に陣形はかなり崩れていたのだろう。
その煙弾が上がった方角は。
「左翼方面だ……。」
班長の言葉と同時に、私は馬を走らせていた。考えるよりも先に体が動いていた。
「ティル！！」
後ろから名前を呼ぶ声が聞こえたが、それどころではなかった。
この時の私は、冷静ではいなかったのだ。
1ヶ月前の講義後の会話を思い出していた。
『お前は？』
『俺は、初列の最左翼』
「ロルフ……っ！」
大丈夫、そんなわけない。でも、もしかしたら……。
嫌な考えが浮かんでは消えた。
頼むから、間に合ってくれ。
ただ祈りながら、ひたすら馬を走らせた。作戦遂行不可能により、撤退の合図が出たことも気づかないまま……。
……
「……あれは、巨人の。」
しばらく走った先に、蒸気のようなものを視界で確認した。
その一角に、無数の巨人の死骸を見た。
そして、
「……まだいる。」
微かに悲鳴が聞こえた。
何人かの兵士が巨人を数体相手にしているのが見えた。しかし、この平野で、数体の巨人を相手にするのはかなりのリスクがある。
私は迷わずそこへ向かった。直感だが、そこにあいつもいると思った。
近づくにつれ、巨人の数を把握する。
どうやら3体、死骸が2体。転がる兵士の死体から察するに、5体同時に襲撃されたようだった。
そしてやはり、その中にロルフはいた。
生存者はもうほとんどいなかった。
頼むから、間に合って。
どんどん悲鳴が大きくなる。
1人、また1人と潰されていく仲間を見た。その中に、どうか貴方は入らないで。
これほど、自分の馬が遅いと思ったことはなかった。これほど彼が遠いと感じたことはなかった。
まだ20メートルほどある。その距離の遠さを呪いたくなった。
その時、ロルフの身体が巨人に掴まれた。
「ロルフっ！！」
私の叫びに、彼は気づいてこっちを見た。
それは、いつもの笑顔だった。
待って。お願いだから待って。それだけはやめて。
私を置いていかないで。
しかし、次の瞬間、私は地面に投げ出された。
残り10メートル程で、他の巨人が馬ごと私を叩いたのだ。
突然の衝撃。頭に走る痛み。
しかし、それでも私は顔を上げる。
叫ばずにはいられなかった。
叫んでいる筈が、私の声は何かに掻き消されているように耳には届かない。
這いずりながら、再び彼を探し、視界に捉えた。
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作者名：わか | 作成日時：2019年9月16日 16時
