今すぐキスして。【2】 完

One More Kiss ページ14

「…似てない？」


こいつ、眼科に行ったほうがいいんじゃないかと、半ば本気で思いながら聞いた。


一卵性双生児を前に、似てない発言。


20年以上生きてきて、初めての事だった。


似てると言われすぎるのも嫌だけど、似てないと言われると、それはそれで複雑だ。






「――声」



そういって、私たち２人を交互に見る、彼。




「声が全然ちがう――。……なに？」



いえいえ。
電話口でもよく間違われますよ、私たち…。



あたりまえ、とでも言うように再びカップを口に運ぶ彼は、怪訝そうな顔をして視線を送る私に低く問いかけた。




「声も似てるって言われるん……だけど…」


尻すぼみになったのは、彼の雰囲気が少し変わった気がしたから。



「どこが？」




そう言ってカプチーノを飲み干した彼は、怒っているというより、どこか拗ねてるように見えた。



「音大生の耳、なめんなよ」





そうこぼした彼に、『耳がいい』と前に言われたことを思い出す。


これは、音大生だからどうこう……ってわけじゃないと思うんだけど。





「――これだけじゃ、不満なわけ？」



｢………｣




何も言わない私に言葉を重ねる彼のカップを、私はやっぱり無言のままひいた。


「もう一杯飲んでって」



今度はさっきよりも凝ったものを描いてあげよう。


道具を手にした時、彼の口元がわずかに弧を描いた気がした。



ああ、やっぱり敵わない。



不満？


いいえ、最高に満足です。



＜END＞

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